第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(106)
タケの体は、まるでブラックホールに吸い込まれるように、スパイラル曲線を描きながら、ニューブクロ荘へと、消えて行った。
中は宇宙空間のように薄暗く、タイムトンネルに迷い込んでしまったかのような・・・一瞬、Gを感じない世界が広がっていた。
・・・・・何か掴む物はないのだろうか・・・!
と、手探りで探していた時だった。
床の出っ張りに毛躓き、バランスを崩した瞬間、脳ミソにスターマインのような巨大な火花が散った。
「ウーウーウー・・・痛てー・・・なんなんだー、これはー・・・!」
頭を両手でかかえて悶絶していると、急に周囲がパッと明るくなった。
横を見ると、巨大な金属製のタヌキの置物が、トボケた顔でこちらを見つめているではないか。
・・・どうやら、これに激突してしまったらしい。
「ウーウーウー・・・痛てー・・・どうなっているんだー、これはー・・・!」
ゆっくりと頭を持ち上げると、今度は廊下の中央にロッキングチェアに乗った老人が、マジックのように出現したのである。
「ウォーウォーウォー・・・ウォーウォーウォー・・・!これは、ドッキリなのか・・・ここは、オバケ屋敷なのか・・・!」
タケは状況を理解できず、叫び声を上げた。
「あなたは、誰・・・あなたは、誰なんですかー・・・!」
勇気を振り絞って声を出してみたが、何の反応もなかった。
「あなたは、誰・・・あなたは、誰なんですかー・・・!」
老人は、焼き鳥の串をくわえながら、チッ・チッ・チ・・・チッ・チッ・チ・・・と、独り言を繰り返し、ただ、タケを眺めているばかりであった。
おそらく、虫歯の掃除でもしているのであろう。
何度も「チッ・チッ・チ・・・チッ・チッ・チ・・・!」と、言いながら50センチもあろうかと思われる長い串で、必死に清掃を繰り返していた。
!!!!!!!!!!!!
「・・・あっしには、かかわりのないことでござんす・・・!」
老人がつぶやいた瞬間、ハツは直ぐにピンと来た。
それは、当時、テレビで放送されていた笹沢左保原作の「木枯し紋次郎」の有名なセリフだった。
主人公の紋次郎は、上州新田郡三日月村の出身で、貧しい農家の6男に生まれ、小さい頃に間引きされそうになったのだが、10歳年上の姉の機転によりに助けられた。
その後、家を飛び出した紋次郎は、幼馴染に裏切られ人間不信になり、周囲と関わりを持たないように生きていく。
自分で長い楊枝を削り、それを口にくわえて微妙な音とともに、吹矢のように飛ばすのだ。
ドラマは、高視聴率を叩き出し、食堂に置いてある楊枝はあっという間になくなっていた。
皆、彼の真似をして、大人から子供までが楊枝をくわえだしたのだ。
そして「・・・あっしには、かかわりのないことでござんす・・・!」
という、お決まりの言葉を全員が発するのである。
これはまさに、社会現象といっても過言ではなかった。
!!!!!!!!!!!!
予想したとおり、老人は「シュー・シュー・シュー・・・!」
という音と共に、楊枝を吹き飛ばしたのである。
だが、残念なことに飛距離は30センチ程しかなかった。
肺活量が小さかったのであろう。
楊枝は放物線を描くこともなく、口から弱々しく落下していった。
「・・・あ・あ・あ・あーー・・・あっしには、かかわりのないことでござんす・・・!」
彼は、お約束の言葉を発したが、思いっきり噛んでいた。
グットなシチュエーションであったが、楊枝とセリフがすべてをブチ壊してしまった。
老人は、この状況にいたたまれなくなったのであろう。
急に直立すると、顔を真っ赤に染めながら、廊下の奥へと消えてしまった。
玄関には、呆然と立ち尽くすハツ君だけが、取り残されてしまったのである。
・・・そして彼もまた・・・
「・・・あっしには、かかわりのないことでござんす・・・!」
と、つぶやいていたのであった。
!!!!!!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス