第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(11)
さて、正直屋の最大のハイライトは、当時としてはめずらしいタイムセールだった。
「さー、始めましょう!・・・さー、始めちゃいましょう!・・・権ちゃんのタイムセールだよーん!・・・30分間だけ、権ちゃんはキミのものだよーん!」
権さんの一言で、突然、セールが始まるのだ。
30分間だけという所がミソで、その日の気分によって5分だったり10分だったりしたが・・・最長30分を超えることはなかった。
値段は、さつま芋15円、焼きまんじゅう15円、コンニャク15円、バターケーキ15円・・・・・どういうわけなのか、すべてが15円だった。
ご縁があるようにと言っていたが、ならば15円じゃなくて、ポッキリの5円にすれば良いのにと思ったが・・・・・そこが、正直屋のセコイところでもあったのだ。
少しでも損出を防ぎたいというのが、ミエミエだったような気がする。
また、突然セールを仕掛けるために、主婦にとっては、ドキドキ感、ワクワク感が満載だった。
とにかく、これが客を引き付けたことには間違いないようで、「正直屋マニア」が大量に発生し、またたく間にイナリ山一番の人気店へと、登り詰めたのである。
キャッチフレーズは「あなたと私の愛コトバ、正直屋で会いましょう!」だった。
当時、流行歌でフランク永井の「有楽町で逢いましょう」というのがヒットしていたが・・・・・正直屋は単純に名前を変えただけの、完全なパクリだったと思う。
店はりっぱに繁盛していたが、隣組からは、「正直屋はセコイ、あそこは蟻地獄だ、一旦入店したら最後、子供から老人まで、全員が金を搾り取られるぞ、まさに地獄屋だ!」と、言われていた。
しかし、これはすべて隣人のやっかみだった。
何故なら、この経営方法は買物客をおおいに楽しませ、主婦の購買意欲をたんと刺激したし・・・・・当時としては画期的なもので、賞賛に値するものだったからだ。
また、野菜の鮮度は抜群で、近所の農家から早朝に買い付けてくるものだから、安心安全の品物であることは言うまでもなかった。
!!!!!!!!!!
ところで、正直屋の社長はジミー隊長の父親の権さんがやっていた。
信じられない話だが、彼は夏の夕方、田んぼの水回りに行った時、落雷に直撃され、三途の川まで飛ばされたのだそうだ。
さいわい、カミナリは背中を通り抜けて地面にあったトタン板に吸い込まれて行ったため、一命をとりとめたのだそうである。
彼は人を見つけては、それを自慢していた。
たしかに、見事な黒いヤケド跡が背中にあったから、事実だったのだろう。
事の真相は不明だが、彼は落雷に打たれたと同時に、人生を左右する臨死体験をしたのだそうだ。
カミナリのエネルギーを真ともに受けた権さんは、雷雲の中を超高速で突き抜け、利根川みたいな大きな川にジャブンと着水したらしい。
そこは暴れ川、激流・・・・・三途の川だった・・・・・のだそうだ・・・・・・しかし、権さんは得意のバタフライでトビウオのように泳ぎまくり、なんとか岸に上陸したのだそうだ。
ところが、さすがの権さんも力尽き、砂の上にバタリと倒れ、大の字になって寝ころんでしまった。
すると、突然、もやもやとした白い霊が出現したらしいのだ。
目をこらして見ると、なんと、幼少の頃、彼をかわいがってくれた太助爺ではないか。
爺は、黒いマントを風になびかせてスーパーマンに変身をしていた。
そして、静かな口調で権さんを諭すように語り始めたのだ。
「・・・良いか、そなたは、今日から正直屋を始めるのじゃ・・・お客様は神様だと思って、なんでも要望を聞いてやるのだ・・・良いか・・・ヒヒーン・パカパカパカ・・・!」
呆気にとられて、ただ立ち尽くすだけの権さんに向かって、太助爺は念を押した。
「・・・良いか、おまえは助平だから、おばやんにはくれぐれも気を付けるのじゃ・・・・わかったか・・・・・ヒヒーン・パカパカパカ・・・!」
何故、スーパーマンなのか、何故、ヒヒーン・パカパカなのか、何故、「おばやん」なのか・・・・・・・不可解だったのだが、とにかく、闇の中からご神託を受けたのだそうだ。
権さんが、しかめっ面をしていると「・・・・・いつまでここにいる気じゃ、この馬ナミ野郎、とっとと帰えらんかー・・・・ヒヒーン・パカパカ!!」
そう言うと、権さんは、太助爺に思いっきり蹴飛ばされて、また、超高速でこの世に舞い戻ってきたのだそうだ。
余談であるが、彼は馬のように長い顔をしていたため、周囲からは馬ナミと呼ばれていたのだ。
その後、馬ナミの権さんは、半信半疑で正直屋を起業し、がむしゃらに働いて繁盛店にしたのだ・・・・・・が・・・・・・悲しいかな、すぐに妻のカネコさんに実権を握られてしまった。
何故なら、太助爺との約束を守らなかったからだ。
彼の脇は超アマで、「おばやん」たちにめっぽう弱かったのだ。
「おばやん」たちに一言声を掛けられると、顔が馬ナミに伸びで、名馬ハイセイコーのような顔つきになっていた。
そして、ひたすら「べんきょう」をしてしまうのだ。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス