第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(24)
  「愛称」と「あだ名」とでは、込められた意味あいに、180度程の差がある。
「愛称」はニックネームとも呼ばれ、暖かで親しみが込められているが、一方の「あだ名」は、悪評やら事実無根の評判やら、とにかく相手を見下そうとする軽蔑の意味が多分に込められている。
自分からあだ名を認める者は誰もいないだろうが、ひとたび付けられてしまうと、本人の意志とは関係なく一人歩きをしてしまうのだ。
いくらもがいても拒否をしても、すっぽりとはまってしまうのだから不思議である。
そして、いやだいやだと言いながら、一生つきあわなければならない。
中には、それをひっくり返そうと自分から画策した者もいたが、結局は逆襲にあい、新たなあざ名を追加されてしまうのがオチだった。
当時、トラオはホネと呼ばれていたが、一発逆転をねらって、イケメン歌手の舟木一夫のマネをして、髪の毛を左サイドに寄せていた。
毎朝、お手製のヘチマ油をしっかりとすり込んでヘアーを整えて、イケメン気分に浸っていたのだ。
それは、いつか誰かが、舟木さんと呼んでくれるだろうと、ひそかに期待してのことだった。
ところが、思わぬところから妨害が入ってしまった。
「おい、おたんちん野郎めー・・・もしかして、舟木さんのマネをしているんじゃねーだろーなー・・・こんな事をして、舟木さんに失礼だろー・・・たんとあやまれ・・・この、バチあたりめーーーーーー・・・たんとあやまれーーーーーーーー・・・!!」
なんと、それはもっとも身近な存在である母親のキクさんだった。
彼女は舟木さんの大ファンで、あの名曲「高校三年生」を口ずさみ、赤い夕日を見つめながら、乙女時代を回想するのが、唯一の楽しみだったのだ。
「私は、ミス・ロマンチック、私は、ミス・メランコリーなのよ・・・♡」
キクさんは、エプロンを胸元までまくり上げて涙ぐみ、セピア色にたそがれていたが・・・・・それこそがミスだったと思うのは、私だけだろうか。
舟木さんカットを気どる奴など、たとえ自分の息子でも許せなかったようだ。
キクさんは、怒ると凶暴で乱暴だ。
一度怒りのスイッチが入ってしまうと、すべてものを無視して、半狂乱状態で暴れ回るのだ。
その姿には、だれもが恐怖を覚え、まさにお手上げ状態だ。
だからトラオは、テレビドラマ「逃亡者」の主人公であるリチャード・キンブルのようにすばやく逃走して難をのがれようとしたのだ。
が、母親の密令を受けた兄弟たちにより追い詰められて、ついに捕獲されてしまった。
ボコボコにされたあげくに、手動式のバリカンであっさりとトラガリにされてしまったのだ。
舟木さんカットは、もののみごとに破壊され、見るも無残な姿になってしまった。
その、悲惨なヘアースタイルからだろうか・・・ホネトラと言うあだ名を1個、追加されてしまったのだ。
一発逆転が、とんだ結末になってしまった。
!!!!!!!!
トラオの母親であるキクさんについて、お話しましょう。
そうなんです・・・そうなんです・・・ク・ク・ク・ク・・・・ケ・ケ・ケ・ケ・・・・・
ク・ク・81ジャーーーーーーーーーーン・・・!
キクさんの秘密・・・・・そ・そ・れ・は・・・そ・れ・はーーーーーーーん
・・・・・・決して結ばれる事のない、松尾松男との悲恋だったのです。
ニャ・ニャ・ニャ・ニャー――――ン・・・ワ・ワ・ワ・ワー―――――ン・・・!
出会いは、彼女が15歳の時・・・野良仕事からの帰宅途中、再会橋で偶然、二人は出会ってしまったのだーーーーーーーーどーーん!。
まるで、未知との遭遇・・・これこそが運命のいたずらだったのだーーーーー・・・!
なんと・なんと・・・イナリ山中学校の先輩である松尾松男が、橋の向こう側からやってきたのでーーーーーーす・・・・
ドスコーーーーーーーイ・・・ドスコーーーーーーーーイ・・・!
彼は一つ年上で、去年、名門イナリ山高校に進学を果たしたのだ。
スポーツ万能、おまけにイケメンのため、当時は下級生からも絶大な人気があり、松男マニアがたんと存在した。
もちろん、キクさんもその一人であったが、所詮かなわぬ恋とあきらめていたのだ。
野良仕事仕様のキクさんは、みすぼらしい身なりを隠そうとして、橋の欄干にとっさに隠れたのだ。
彼女の心臓は、まるで機関車のように高鳴っていた。
ド・ド・ド・ド・ドキューーーーーン・・・キュン・キュン・キューーーーーン・・!
「どうすんべー、どうすんべーどうすんべーーーーーーーな・な・ナベさーーん・・!」
あまりの緊張で、失神寸前だったのだ。
穴があったら入りたいと思っていたら、土手に穴があいていたので、すなおに飛び込んでしまった。
今・・・・・愛しの松尾松男さんが、どんどんと近づいてくる。
50メートル、40メートル、30メートル・・・・・・・・・・・・・・・!
どうする・・・どうする・・・どうするんだんべかーーーーーカン太郎さーーーーん・・!
感動のあまり、全身が小刻みに震え、涙で松男様が霞んでしまった。
おまけに、興奮し過ぎて軽い尿漏れを起こしてしまったのだーーーーーーー!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
   【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス