第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(28)
恋する乙女は美しく・・・・・そして、せつない。
偉大なるメモリーは時間の経過とともに美化されて、妄想へと変化する。
ちっぽけな出来事が、まるで巨大なストーリーへと強引に進んで行くのだ。
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・・・・・・キクさんは、今・・・愛の白昼夢の真っただ中にいたのだ。
松尾松男への思いを膨らみに膨らませて、イナリ山の人魚姫になっていた。
セピア色にたそがれながら、コスモスの花びらを・・・1枚・2枚・3枚・・・・・1枚・2枚・3枚・・・・・1枚・2枚・3枚・・・・・朝から延々とむしっていた。
庭にあった花は、あっという間に消えてしまい・・・今度は、木陰で昼寝をしているネコのピーのヒゲをむしり、逃げ惑うイヌのガチのヒゲをむしり、カメ師匠のヒゲをむしり、ツル先生の僅かに残る産毛をむしっていた。
ハー・・・ハー-・・・ハー――・・・ハーーーー・・・ハハ呑気
何百回、何千回、何万回、何十万回、何百万回、何千万回・・・・・・
口から出て行くのは、ため息、吐息・・・・・二酸化炭素
あの日、あの時、あの場所で・・・・・そうなのだ・・・・キクさんはシンデレラになってしまったのだ。
ただ、残念だったのは、ガラスの靴の代わりに、桃の木川の再会橋に使い古した地下足袋を置いてきてしまったことだった。
「王子様、早く迎えに来てくんねーーかーーい・・・・・王子様、早く迎えに来てくんねーーかーーい・・・・♡・♡」
・・・・・彼女は、昭和の名画 「君の名は」のヒロインである氏家真知子に、たんとなりきっていたのだ。
残暑厳しき折にもかかわらず、頭に手拭いをグルグルと巻いて、マチコ巻にしていたのである。
キクさんは、桃の木川の砕け散るうたかたを、ただただ見つめるばかりであった。
頭の中には、スピニングワルツの甘い調べが、せつなく流れていたのだ。
「いやーん・ボッコーーン・・・・フニャ・フニャ・フニャ・・・・・♡・♡」
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「テメー、調子こいてんじゃねー・・・・いい気になっているんじゃねーぞー!」
「い・い・イヤーーン・・・止めてくださーーーい、何もしていませんよーー!」
「うるせー・・・女にキャーキャー言われて、浮かれてるんじゃねーぞーー・・・この、スケベー野郎め―――!」
キクさんが再会橋の下で、ひたすらたそがれていると、なんだか聞き覚えのある声がしてきたのだ。
見上げると、先週、軽くシメてやった杉緒杉男が、松尾松男の胸元を両手でつかんでいるではないか。
「このスケベー野郎、ヤキを入れてやんべー,歯をくいしばれー!」
そう言うと、杉緒杉男が松尾松男のアゴに、パンチを4発、ゴン・ゴン・ゴーン・・・タンスにゴーーーーーンと浴びせたのだ。
松尾松男は後方にひっくり返り、橋の手すりを越えて真っ逆さまに落下したのだ。
さいわい、そこには、キクさんが牛用に刈り取った大量の草があった。
3回バウンドして静止したが、落下のショックで無残にもアワを吹いて失神をしてしまっていた。
杉緒杉男のパンチが効いたのか、アゴがアントニオ猪木のようにビヨーーーンと、長くなっているではないか。
「ま・ま・ま・ま・・・松男さま・・・松男さま・・・松男さま・・・!」
突然、キクさんの目の前に松尾松男が空から降ってきたのだ。
「ま・ま・ま・ま・・・松男さま・・・松男さま・・・松男さま・・・!」
彼女は、思わぬ再会に気が動転してしまっていた。
白目をむいた彼に、どう対処して良いものやら解らなかったのだ。
「そうだんべー、そうだんべー・・・こんな時は、チューをするんだんべー・・・!」
キクさんは、白雪姫のストーリーを、とっさに思い浮かべていた。
彼女はタコのように思いっきり口を尖らせて、間髪入れずに松尾松男の唇に吸い付いたのだ。
「チューーーーー・・・チューーーー・・・チューーーーー!!」
そして、横隔膜に力をいれて、これまた思いっきり息を吹き出したのである。
「ハーーー・ハーーー・ハーーー・ハーーー・ハハ呑気・・・・・!!!」
・・・・ン・・・・?・・・ン・・・?・・・ン・・・・・?
・・・・・残念ながら・・・・・彼女は・・・・大きな勘違いをしていたのだ。
これは・・・・・人工呼吸法のマウス・ツー・マウスである!!
明らかに、白雪姫の覚醒方法とは違っていた。
キクさんは何度もマウス・ツー・マウスにトライをしたため、松尾松男の腹は風船のようにパンパンに膨らんでしまったのだ。
「いやーん・ボッコーーン・・・・フニャ・フニャ・フニャ・・・・・♡・♡」
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。  
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス