第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(37)
クメの人命救助に成功したその日の放課後、私は謎の視線をどこからともなく感じるようになっていたのである
それは、ブロック塀の上からなのか、トラオの頭の上からなのか、正直屋の屋根の上からなのか・・・とにかく高い所から誰かに監視されているような・・・強烈な視線を感じていたのである。
何の解決にもならないだろうと思いつつも、なんとなくジミー隊長に相談してみたのだ。
すると、隊長の行動はめずらしく早かった。
当日の夕方、秘密基地でもある正直屋の牛小屋へ、少年ホースの団員に対して招集命令がかかったのだ。
団員たちは、新鮮な果物が食べられると勘違いをして、短距離走者のボルトのように新記録で集合したのだが・・・そこにはトマト顔の隊長しかいなかった。
隊長は、ミカン箱に上がり、顔をトウガラシのように紅潮させながら、突然、ぶちかましたのだ。
「諸君、恐れていたことが、とうとう発生したどー・・・ハカチェが、チノビに狙われたんさ・・・みんな、気をつけてくれ・・・まー・まー・ボクがいれば大丈夫だけんどなー・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!」
隊長は自信たっぷりに、そして豪快に笑い飛ばしたのだが、そのはずみで、ミカン箱から転げ落ちてしまった。
やがて、何とか気をとりなおして、再びミカン箱の上に立ったのだ。
「チノビとの戦いには、負けられねーぞ・・・いいか・・・少年ホースの実力を、今こそ見せつけてやるんべー・・・エイ・エイ・オー・・・!」
隊長は、滑舌の悪さからなのか、二度もシノビをチノビと発音してしまい、おまけに、団員たちをおいてきぼりにして、一人で盛り上がっていた。
私は、謎の視線を確認したわけではなく、相手がシノビだとは思ってもいなかった。
だから、これは完全に、隊長の思い込みであったのだ。
「チノビは突然、攻撃を仕掛けてくるぞ・・・奴等は卑怯者だ・・・きったねー野郎だーーー・・・ブタ野郎だーーーー!」
隊長は、相変わらずシノビをチノビと呼びながら、自分の中で勝手にチノビ像を作り上げていた。
それに、卑怯者も、きったねー野郎も、ブタ野郎も、隊長の方が似合っていた。
「んじゃー、これも必要だんべーなー!
トラオが、何やら紙袋を空中にかざし、天井めがけて、いきなり投げつけたのだ。
すると、白い粒子がパラパラと降ってきて、全員が咳き込んだ。
ウ・ヒョ・ヒョ・ヒ・ョヒョーーーーン・・・・・!
トラオが、塩顔で得意そうに笑い飛ばした。
「ゴホン・ゴホン・ゴホン・・・ゴホンと言ったら竜丸散だんべー・・・目つぶしもいいけど、やっぱり武器といえば、こっちの方じゃねーのか・・・バクダンだんべなー、バクダンじゃねーのかーい・・・!」
今度はハツが、牛小屋の隅にあった牛糞を天井めがけて投げつけたのだ。
ところが運悪く、隊長の顔面にストレートに当たってしまい、またしても隊長はミカンから、ころげ落ちてしまったのだ。
彼は、よほどの強ウンの持ち主なのか、天性の芸人なのか・・・・・・・・・半生の牛糞の上に、顔面からダイブしてしまったのだ。
「わりー、わりー・・・わりいなー隊長・・・かんべんしてくんねーかい・・・!」
ハツが申し訳なさそうに、頭をかいた。
「大丈夫さー・・・隊長はデッケー人間だから、こんな小っちぇーことなんかじゃ、おこらねーよー・・・安心しろよー・・・!」
トラオが、笑いをかみしめながら援護をした。
隊長は、牛糞にまみれた顔面をなぜていたが・・・何故か、体が小刻みに震えていたのだ。
「ヨッ、隊長、色男・・・あんたは神様、仏様だ・・・拝んじゃうよー・・・!」
タケの一言で、全員が両手を合わせたが・・・皆、いまにも吹き出しそうだった。
ハツが、とぼけた顔で続いたのだ。
「いいぞー、正直屋・・・あんたはビッグ、あんたはズナイ、あんたはイナリ山の太陽だ・・・ヨッ、正直屋ヒッチコック・・・しんびれるぜーーーー・・・!」
(余談であるが、正直屋ヒッチコックとは隊長のリングネームで、夏になると畑に水をまいて即席のリングを造り、連日、プロレスショーを開催していたのだ。正直屋ヒッチコックは正義のレスラーで、美味しい果物と引き換えに、悪役担当の団員たちに、せこいキックとパンチをおみまいしていたのである。)
・・・・・・・ハツが調子に乗ってさらに持ち上げると、パラパラと拍手が湧き起ったのだ。
ところが次の瞬間、隊長はガバッと牛糞を両手でつかみ、所かまわず投げつけたのだ。
牛小屋の中は、和牛の強烈な臭いが充満して鼻が曲がりそうな状態になった。
団員たちも応戦して投げ合いが始まり、中はメチャクチャな状態になった・・・
が・・・・・ついには悪臭に耐えきれず、各人逃走して行ったのだ。
結局のところ、隊長はビックでもなく、ズナイ人間でもなく・・・ただの心の小っちゃいブタ野郎だった。
そして、あの悪臭の中で、団員たちの鼻は、しっかりと曲がってしまったのである。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス