第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(39)
少年ホースのシノビに対する特訓は、日増しに激しくなっていった。
利根川の土手の掛け上がりダッシュ50回、韮川の川渡り10回、セコイ・パンチとキック100回、早口言葉100回、カメ師匠の家のヤギとの頭突き対決10回、和牛の小屋の掃除を5回、牛糞投げ10回、手カンチョー10回、ノノシリ50回・・・・・
と、チミー隊長のその日の気分と思い付きで、めちゃくちゃに練習をしていたのだ。
この特訓の中に、「セコイ・パンチとキック」というものがあるのだが、それは古典的な方法で・・・相手の油断を誘って打つパンチとキックのことなのである。
ようするに、次のようなセコイ攻撃をすればよいのだ。
「あ・あ・あ・・・あんな所にミルト・ソンが飛んでいるぞ・・・!」
「あ・あ・あ・・・あんな所にミルト・バカが飛んでいるぞ・・・!」
「あ・あ・あ・・・あんな所にミルト・ブタが飛んでいるぞ・・・・!」
こんな言葉をかけながら、相手が上を向いた隙に、パンチやキックで攻撃するのだ。
最初は面白がってやっていたのだが、同じフレーズの繰り返しのため、いいかげん飽きてしまい、そのうち全員が興味を失しなってしまった。
ただ、隊長だけはノーテンキで「これは、おもしれーなー・・・これは、おもしれーなー・・・必殺ワザだんべー・・・必殺ワザだんべー・・・プレミアムだんべー・・・プレミアムだんべなーーー・・・!」
と言いながら、セコイ・パンチとキックの練習を、延々と続けていた。
団員は、練習相手として指名されると長時間付き合わされるので、頃合いを見計らって死んだふりをした・・・・・一人また一人とバタバタと倒れていったのだ。
「ボクって、偉大だよなー・・・超人だよなー・・・何でもできちゃうんだよなー・・・器用すぎて、イヤになっちゃうよー・・・イナリ山のスーパーマンだよなー・・・!」
と、言いながら、彼はトマト顔でゴキゲンになるのだ。
隊長の自画自賛のサインが出ると、思いっきり持ち上げなければならないのが暗黙のルールだった。
まず、タケがいつものようにやらかすのだ。
「隊長って鼻がゴツイから、もしかしてイギリス人じゃねーだんべかーーー・・・!」
そして、私も迷わず続くのだ。
「そうだんべなー・・・隊長はアゴがズナイから、もしかしてアメリカ人じゃねーだんべか・・・!」
こうなると、隊長は快感で顔をトウガラシのように真っ赤に染めるのだ。
「わかっちゃったかい・・・そうか、わかっちゃったのか・・・ボクもなんとなくそうなんだろうなーと思っていたんさー・・・!」
ここで、たたみ掛けるようにタケが爽快に持ち上げるのだ。
「そうかい・そうかーい・そうかーーーーーい・・・やっぱり、本物はちがうな・・・隊長は、鼻がゴツイから純粋なアメリカ人だんべーーー・・・!」
私も、一気に決めにかかるのだ。
「そうだよな・そうだよな-・そうだよな~~~~・・・隊長はアゴがズナイから、本物のイギリス人だよなー・・・!」
必用十分条件をみごとに満たした甘い言葉で、ジミー隊長はアッチの世界に簡単に飛び込んでしまうのだ。
「黙っていたけど、みんなゴメンなー・・・ボクって日本人じゃなかったんだよ・・・今度から、アーネスト・ヒッチコックって呼んでくれよ・・・!」
エクスタシー満載の顔で、彼はゆっくりとつぶやくのだ。
そして、最後はトラオの一言で、とどめを刺すのだ。
「いいぞ、色男、正直屋ヒッチコック・・・あんたは天才・あんたはイケメン・あんたはミスター・ハリウッドだーーー・・・みんなで、拝んじゃうよ・・・!」
全員、吹き出しそうになりながら、両手を合わせるのだ。
この一体感、この爆笑感は、いったい何だったのだろうか。
ゴツイ鼻も、ズナイ・アゴも、両親の権さんとカネコさんのDNAをパーフェクトに受け継いだ・・・・・まさに彼は、本物の黄色人種だったのである。
☆バンビー!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス