第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(58)
「今だ、行くぞー、クメーーー・・・!」
杉緒杉男がツル大先生のコントに目を奪われている隙に、私はクメの手をつかんで、利根川の水流に向かって一目散に走ったのだ。
それに気づいた杉緒杉男も、獲物を狩るハイエナのように、追いかけてきた。
河川敷には沢山の小石が散乱していて、走るたびにズボズボと足がメリ込んだのだ。
それでも、なんとか岸辺にたどりつくことができたのだが、静かに見えた水流は、接近してみると大変な激流であることに気づかされた。
飛び込もうかどうか躊躇していると、杉緒杉男が息を切らしながら5メートルの距離まで、ひたひたと迫って来たのだ。
「おい、おめーら、どーしたんだ、おじけづいたか・・・利根川の水はひゃつこいぜー、飛び込んでみるか・・・ハ・キョ・キョ・キョ・キョ----ン・・・!」
杉緒杉男は、心の中を見透かしたように、ニヤニヤと鼻で笑った。
とっさに、河原の小石を拾って投げつけてやったが、ボクサーのように器用にかわして、打撃を与えることが出来なかった。
ところが私の頭上から、突然、クメの剛速球が飛んで行ったのだ。
ゴーーンというものすごい音がして、杉緒杉男がみごとにひっくり返り、失神したカエルのように、しばらく動かなくなった。
クメは、平田平太に続いて杉緒杉男もKOして、これで2戦2勝2連続KOとなったのだ。
さすがは大器、天才格闘家・・・将来、イナリ山を背負って立つ人間は格が違う!
しきりに感心していると、杉緒杉男がのっそりのっそりと起き上ってきたのだ。
眉間には、東京スカイツリーのような、みごとな突起物が出来上がり、先端から血液がタラリ・タラリと流れていた。
まるで黄泉の国からやって来た亡霊のように、周囲を恐怖に包み込んだのだ。
「おい、おめーら、やってくれるじゃねーか、やってくれるじゃねーか!」
杉緒杉男は、そう言いながら、流血をペロリとなめ、不気味な笑みを浮かべた。
そして、一歩・二・歩・三歩と、キョンシーのように近づいてきたのだ。
「おい、おめーら、やってくれるじゃねーか、なー、やってくれるじゃねーか!」
彼が同じ言葉を繰り返した瞬間、またしてもクメの剛速球が火を吹いたのだ。
グワーーーンという音と共に、杉緒杉男はアクション映画のように、3メートル程後方にブッ飛んで行った。
トッ・トッ・トッ・トーーーーーーーン・・・・!
彼は、たんとダメージを受けたらしく、白目をむいてひっくり返り、干したスルメイカのようにバンザイをしていた。
この時、私は確信したのだ。
今、イナリ山5大偉人の一人・・・あのツル大先生を完全に越えたのだ・・・クメこそ、偉人中の偉人、イナリ山キングの玉座に座るお方だと・・・・・!
私は、あらためて両手を合わせ、深々とヒレ伏したのだ。
!!!!!!!!!
だが、杉緒杉男はマムシのように不気味だった。
3分後・・・なんと・なんと・なんとっとーーーー・とっとっとーーーーん・・!
彼は、復活したのだ。
まるで、ゼンマイ仕掛けの人造人間のように、ガクン・ガクン・ガクンと不器用なワルツを踊りながら、動き出したのだ。
眉間の東京スカイツリーは2倍の大きさに膨らんで、まさにウルトラ・スカイツリ―になっていた。
しかも、太陽の光をたんと受けて、先端がLEDランプのように輝いていたのだ。
「テメーら、許さねー、絶対許さねーぞーーーー・・・!」
杉緒杉男は髪の毛を振り乱し、まるでフランケンシュタインのような形相でせまってきたのだ。
もはや、躊躇している余裕はなかった。
このままでは、捕獲されてしまう。
あとは、運にまかせるだけだ。
私はクメの手を強く握りしめ、利根川の激流に向かって一気にダイブしたのだーーーーーー・・・ワオーーーーン・ワオーーーーーン・・・!
とっ・とっ・とっ・とーーーーん・・・!!!
バンビー。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス