第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(91)
カズコの家は、韮川用水の近くにあった。
トタン屋根の小さな家で、どこから見ても貧乏そうだったが・・・何故か、ド派手なショッキングピンクで統一されていた。
堤防は一段高くなっていて、その下に這いつくばるような恰好で家が建っていた。
上州名物の「からっ風」対策なのだろう・・・トタンは、幾重にも補強され、少しでも見栄えを良くしようと、ペンキを塗りたくっていたのだが、逆に下品に見えた。
当時,穴の空いた着物はパッチを充て補強し、普通に使用していたので、別に違和感はなかった。
継ぎ充ての家も服装も、すべてが見慣れた光景だったのである。
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3人で入口付近をタムロしていると、突然、シューシューというジェツト噴射のような豪快な爆音が聞こえてきた。
それと同時に、我々は強いアンモニア臭を伴ったシブキに包まれたのである。
「おい、なんかヘンじゃねーかー・・・天気雨かー・・・?」
ハツがそう言って、キョロキョロと周囲を見回した。
「そうだなー・・・なんか、クサくねーかー・・・?」
ロクが、ハナをつまみながら騒ぎだした。
ふと、小高い土手を見上げると、太陽を背に、見事な逆V字型のフオームで、・・・しかも、ストライクのマークから、激しいシブキを飛ばしている人物を発見したのである。
それは逆光の中、股の間から顔をのぞかせて、ヨーシ・ヨーシと言いながら、時折、リキんでいるように見えた。
最初は、理解不能な行動のように思えたが、細部を観察してみると、これは老婆がスタンディング所帯で放尿をしているという、ごく普通の行為であると判明した。
当時の老人は、簡素な着物を着用して睡眠をとる人が多く、日中でも、そのまま着替えずに過ごしていた。
だから、尿意を覚えた時は、ヒョイと着物の裾を持ち上げて、手っ取り早く用事を済ませるのだ。
完成された逆V字型のフオームから考察すると、相当なベテランのように思えた。
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膀胱に、大量の水分を溜め込んでいたのであろう。
ジェツト噴射は、しばらくの間続いたが・・・やがてシブキは止み、老婆のリキんだ顔からは力が抜けて、安堵の表情に変わって行った。
ドーパミンが分泌されたのだろう・・・ヨーシ・ヨーシと呟きながら、エクスタシーに包まれているかのようだった。
3人は、汚い物を見てしまった記憶をなんとか消そうとして、顔を見合わせながら何度も大笑いをしていた。
だが、この事は、幼少期の消すに消せないトラウマになってしまったのである。
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「おーい、おめーたち・・・おーい、おめーたちさー・・・!」
やはり、逆V字型フオームのベテランは、この家の主であるミコト婆さんであった。
婆さんは、手についたシブキを振り払らいながら、土手を下ってきた。
「よく来たなー・・・よってけやー、よってけやー・・・!」
とても嬉しそうに笑いながら、3人を家に招き入れてくれたのである。
ハツも私も、初対面の相手に対して少し戸惑っていたが、ミコト婆さんは思ったよりもフレンドリーだった。
彼女は我々をコタツに座らせると、台所から一斗缶を持ち出してきた。
「おめーたち、手を出せやー・・・早く、手を出せやー・・・!」
そう言いながら、缶の中から「割れせん」を、ガバッとワシ掴みにして、プレゼントをしてくれたのである。
「たんと食えよー・・・なー、おめーたちは、育ち盛りだかんなー・・・たんとあるからよー・・・おかわりしても、いいかんなー・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・!」
ミコト婆さんは、手の上に「割れせん」を山盛りに乗せてゴキゲンだった。
「これはよー、正直屋で買ってきたんさー・・・スケベー社長をおだてて、安くしてもらったんさーねー・・・うんめーから、食いなー、食いなー・・・!」
彼女に何度も勧められたが、ストライクのマークから発射されたジェツト噴射のシブキがトラウマとなり、なかなか手を出せなかった。
すると、ロクが苦笑いをしながら口を開いた。
「ハカチェとロク・・・遠慮しねーで、食えやー・・・婆ちゃんは、子供がたんと食ってるところを見るのが、嬉しんだよー・・・!」
そう言われると、食べないわけにはいかなかった。
ハツは心なしか、少し震えているように見えた。
「なー、うんめんべー、うんめんべー・・・正直屋の「割れせん」は、最高だんべー・・・!」
私が口に含んだ瞬間、ロクが正直屋を褒めたたえた。
「そうだなー、そうだなー・・・最高だぜー・・・こんな、うんめーもんは初めてだぜ・・・正直屋ってスゲーなー・・・たんと、いいよなー・・・!」
複雑な味をかみしめながら、いつしかロクの意見に乗っていた。
「うんめー、うんめー・・・正直屋、たんといいぜー・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・!」
ハツも何かを振り払うかのように、猛烈な勢いでガッツき始めた。
「割れせん」を、嚙み砕きながら、その場は徐々に盛り上がっていったのであるが、シューシューというジェツト噴射の爆音は、なかなか頭から離れることはなかった。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス