第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(95)
やはりハツは、わかくさ保育園の初恋桜の下にいた。
大木に抱き着きながら、何度も何度もタメ息をつき、突然、笑い出し、そして泣いていた。
たぶん、決して思いどおりにならない人生を嘆いていたのであろう。
私とロクは、ブロックの角に隠れてしばらくの間、静観していたのだが・・・やがて彼は名案を思い付いたようで・・・思考を逆転しようと三角倒立をした。
じっと静止していると、血液が脳ミソに集中し過ぎたのだろう・・・前方に、バタンと倒れてしまった。
運の悪いことに、地表に露出していた大きな根っこでヒザ小僧を強打してしまい、「ギャー!」と、ネコが尻尾を踏まれたかのような悲鳴を上げたのである。
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クスクスと二人で笑いながら、頃合いを見計って声をかけてみた。
「オメーは祖母ちゃん子だったからなー、婆さんが好なのもわかるよー、キンコ婆さんにはたんと可愛がってもらったもんなー・・・!」
我々の出現に、ハツはかなり驚いたようで、ダンゴ虫のように丸くなってしまった。
「そうなんだー・・・だったらよー、姉ちゃんをダシにしねーで、最初から言ってくれたら良かったんになー・・・話がこんがらかったじゃねーかよー・・・オメーも、罪な男だなー・・・イロ男よー・・・ウヒャヒャヒャヒャ・・・!」
彼は、耳を両手で抑えて、必死になって聞こえないふりをしていた。
「オメー、カズコさんに失礼だろう・・・でも、デキた人だよな、ミコト婆さんの手を握らせてくれたもんな・・・オトナの対応だよなー・・・優しいよなー・・・イナリ山のアイドルだよ・・・いや、天使だよなー・・・みんな、ホレホレだぜー・・・!」
一方的に話す二人に、ハツも我慢できなくなったようで、スッと立ち上がったのだ。
「オメーらが、悪いんだんべー・・・話を変な方向に向けるんじゃねーぞー・・・!」
彼は顔を真っ赤にして、激高していた。
「何言ってるんだよー・・・オメーが正直に話してくれなかったからだろー・・・!」
「そうだ、そうだ・・・友達なんだから、ちゃんと話せよー・・・!」
ロクと私は、ハツの真意がつかめずにいた。
「そもそも、なんでオレが婆さん好きなんだよー・・・ふざけるんじゃねーぞー・・・カズコさんに誤解されちまったじゃねーかよー・・・どうしてくれるんだよー・・・!」
彼は、体を震わせて必死に抗議をしてきた
「えー、ウソだろー・・・信じられねーぞー・・・オメーは婆さんが好きだんべなー!」
「そうだよな・・・オメーの婆さん好きは、イナリ山で有名だぞー・・・!」
私とロクは、互いに顔を見合わせた。
「ヤメてくれー、それは、誤解だー、絶対、誤解だー、・・・!」
彼は、まるで「ムンクの叫び」のような形相で叫んだのである。
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「そうだよな、そうだよな・・・よーく考えてみれば可笑しな話だぜー・・・!」
沈黙の後、最初に口火を切ったのは、ロクだった。
吹き出しそうになりながら、私も続いたのだ。
「なるほどな、なるほどな・・・この恋愛話は、落語みてーなものだな、オチがあったなー!」
誤解が解けてハツも安堵したようで、徐々に落ち着きを取り戻してきた。
「そうだんべー・・・そうだんべ・・・解ってくれて、安心したよ・・・好きなのは、カズコさんだぜー・・・知っているんべー・・・オレは一途な男だぜ・・・永遠にカズコさん押しなんだぜー・・・!」
ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・・!
ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・・!
初恋桜の下で、三人は互いの顔を指さしながら、笑い続けたのであるが、ハツの婆さん好きについては、疑う余地はなかった気がする。
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P.S
誤解は早く解いた方が良いというロクの意見に従い、我々は、急遽、利根川に向かったのである。
カズコのトレーニング場所は、巨岩の横たわる河川敷でそこでインターバルトレーニングをするのが、朝夕の日課になっていた。
告白は桃色作戦と名付けられ、ハツが偶然を装って声掛けをし、持っていた正直屋のフルーツをプレゼントするというものだった。
弟のロクから彼女の好みを聞いたハツは、今度こそは決めてやるぞと、心臓をバクバクさせながら、一路、利根川の河川敷に向かったのである。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス