第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(99)
イナリ山住民体育祭は、毎年5月の連休明けに開催されていた。
地域を東西南北に区切り、赤城団・榛名団・浅間団・妙義団として団体戦が行われ 順位による得点方式で、おおいに盛り上がっていた。
体育祭のメイン・エメントは100メートル走で、各団から2名の精鋭が選出されて 順番を競うのだが、何故かその中にハツ君とチミー隊長が紛れ込んでいたのである。
隊長の父親の権さんが、区長を務めるツル先生に強引な忖度をしたのであろうか。
何とも不思議な光景で、たんと違和感を覚えた。
「おいおい・・・赤城団は、終わっているぜ。デブとガリガリじゃ話になんねーな。
参加賞をもらいに来たんか・・・セコイぜ、まったくもう、あきれたもんだぜ・・・ ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!」
同級生の米山寅太郎が、上から目線で私とロクに話しかけてきたが、その態度に ロクがイラついたようで、すぐに大声で反撃を開始した。
「おめーはノー天気だなー・・・知らねんきゃー、ハツはスゲーんだぜー イナリ山のチターって呼ばれてるんだぜー・・・!」
「そうだ・そうだ・・・とにかくヤベー奴なんだぜ・・・イナリ山のスーパーマンだぜ。」
私も参戦して、ハツをモリモリに盛り上げた。
「へー・・・そうかい・そうかい・そうかーい・・・!」
米山寅太郎が、人をバカにしたように爽快に叫んだ。
「チターって、チーターじゃねーのか・・・それに、スーパーマンにしては、 ガリガリじゃねーかよー・・・隣のデブから、半分もらったほうがいんじゃねーのか ・・・デブは食い過ぎだろな・・・もうちっと減量したほうがいんじゃねーのか・・・ 本当に走れるんかいのー・・・骨折してイノクマさんのお世話になるぜ・・・ キョ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・!」
イノクマさんとは、イナリ山に唯一存在する治療院のことである。
「ざけんじゃねーよ・・・隊長は、太ってなんかいねーぞ・・・全身が筋肉なんだぜ ・・・毎日、100㎏のバーベルを持ち上げているんさーねー・・・ イナリ山のヘラクレスって呼ばれていて、イカレた野郎なんかは、名前を聞いただけで 逃げ出すぜ・・・ホキョーン・ホキョーン・ホキョーン・・・!」
ロクの発言は完全なデタラメで、逃げ出すのはいつも彼の方だった。
隊長は、権さんにおねだりをしてバーベルセットを買ってもらったのだが、1日で 放棄してしまっていた。
代わりに、団員たちがこれを使用していたのである。
「じゃーよー・・・見せてもらうんべーじゃねーかー・・・だがよー・・・ うちの榛名団の万典に負けたら、二人とも裸でグランドを走ってもらうぜ・・・ そのくらいの覚悟はできてんべーなー・・・アイツは、去年ぶっちぎりの1番 だったんだからよー・・・キョ・キョ・キョ・・・今なら、まだ間に合うぜ・・・ ごめんなさいって、土下座をすればよー・・・許してやってもいいぜー・・・ ヒョン・ヒョン・ヒョン・ヒョーン・・・!」
まさに、売り言葉に買い言葉だった。
「上等じゃねーかよ・・・イナリ山で1番かー・・・そうかい・そうかい・そうかーい・・・ そんなことを言ってよー・・・反対に負けたら、オメー覚悟はできているんべなー・・・ ワッキャ・キャ・キャ・・・!」
ロクは、潤滑油を飲み込んだように、ますます饒舌になっていった。
「井の中の蛙とは、よく言ったもんだぜ・・・オメーよー・・・世間は広いんだぜ・・・ ハツなんか佐波郡で1番だかんなー・・・とっくに万典の上を行っているんだよー・・・ キ・キ・キ・キ・・・オメーなー、さっきの話、ちゃんと聞いたかんなー・・・ 裸になる準備はできてんのかー、逃げるんじゃねーぞー・・・ 汚ったねーモノを人前に放り出す前に、立派に花王で洗っておけよー・・・ フンギャ・フンギャ・フンガー・・・!」
二人は、逃亡防止のために米山寅太郎を挟み込んだが、彼は不敵な微笑を浮かべながら じっとスタートラインを見つめていた。
反対に、私とハツは、どのタイミングで逃げ出そうかと思案していたのである。
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・・・・・そして、いよいよ・・・真っ白なトレパンを着用したスターターのツル大先生が、 左右によろめきながら、一段高い台に上がり選手たちにダミ声で合図を送ったのだ。
やがて、彼等は緊張しながらも、スタートラインに立った。
同時に、各団からは地響きのような応援コールが湧き上がり、異常な興奮は頂点に達し 舞台は整ったのだ。
先生は、大きく右手を上げ・・・スタートの号砲をズドーンと鳴らした・・・のだが・・・ その反動で、崩れるように台から落下していった。
芸術的な演出に感動したためなのか、地面が割れるかのような観客からの ムンクの叫び声は、しばらくの間,止まなかったのである。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス