第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(4)
たとえば、記憶が盗難にあうことはあるのだろうか・・・・・・。
我々の脳には、生まれてから現在まで、途方もない量の記憶が蓄積されている。
頭の中には、楽しい記憶、悲しい記憶、自分を認識するための大変重要な記憶・・・・・・はたまた、どうでも良いような記憶・・・・・・・まさに千差万別である。
その中のほんの一部分を消去されてしまっても、人間の生活にはなんら支障をきたさないだろう。
ましてや、最愛の人との別れなど、悲しみのあまり忘却の彼方に葬ってしまいたいものもあるかもしれない。
記憶の一片を無くした程度では、人の毎日には不都合はないはずだ。
だが・・・・・・ある記憶だけを狙って、故意に略奪されてしまったらどうだろうか。
個人しか知りえない秘密の記憶・・・・・・・・!
メモリースナイパーにより消された記憶が、たとえばH・Dメモリーみたいなものにコピーされ、特殊なサイバー空間に保存され、売買されているとしたなら・・・・・・・。
それを購入して、アンドロイドに注入したなら・・・・・ある事象に特化したロボットができあがるかもしれない。
あるいは、精神を病んでいる人にワクチンとして投与されたなら・・・・・。
見方によっては、世の中には自分に似たグループが、すでに多数存在しているかもしれない。
それも、本人の知らない間に・・・・・・・。
何故なら、メモリースナイパーはボディを傷つけることなく、確実に、特定の記憶を抜き取ってしまうからだ。
!!!!!!!!!
五里霧中とは、このことなのだろうか。
頭の中に霞がかかり、私の脳は完全に機能が停止してしまっていた。
もうろうとした意識の中、かろうじて、わかくさ保育園の事務室にたどりつくことができたのは、幸運だった。
椅子に深く腰をかけて、今までの記憶をたどろうとしたがただ、うまく脳が機能しなかった。
「コケコッコー、コケケッコー・・・!」と、遠くで鳴いているカメさん家の一番鶏の声を、どうにか認識するのがやっとだった。
前頭葉も三半器官も、完全に狂ってしまっていたのだ。
いったい、何があったのか。
この体はどうなってしまったのだろうか。
めまい、動悸、息切れ、五十肩、こむら返り、高血圧、胃酸過多、便秘、・・・・・あらゆる症状が、同時に襲って来た。
自問自答を繰り返しながら、なんとか倦怠感を取り除こうと、正直屋で購入した正直茶を口に含んだ。
「・・・・クー、クー、クー・・・・・ク・シ・・・36・・・!」
強烈な渋味が脳幹に広がり、とても心地良かった。
こんな時は、正直屋の安っぽいお茶が役に立つ。
その時だった。
ドン・ドン・ドンと、ドアを激しく叩く音がした。
「たのもう、たのもう・・・・・たのむダンス・・・!」
聞き覚えのない声・・・・・・・・窓ガラス越にのぞいてみると、見知らぬ少女が2人、立っているではないか。
彼女らは、手加減というものを知らないのだろうか。
・・・・・ドアを叩く音は次第に大きくなっていき、このまま放っておくと壊してしまいそうな勢いだった。
「ドン・ドン・ドン・ドン・ドーン・・・たのもう、たのもうダンス・・・!」
どうにか落ち着きを取り戻しつつある私の脳ミソに、強烈な打撃音が響いた。
「コラー、ドアが壊れるぞー・・・・・ゾーさん、ゾーさん,お鼻が長いのね、そーよ、お母さんも、長いのよーん・・・・!!」
仕方なくドアを開けてみると、私の声を無視するかのように、二人はいきなり妙なポーズを取り始めたのだ。
胸筋の厚みをアピールするサイドチェスト、腹筋と足を強調するアブドミナル&サイ、上腕三頭筋を強調するサイドトライセブス、僧帽筋や肩、腕、胸の太さを強調するモストマスキュラー・・・・・・・!
「あ・あ・あ・あ・・・・・・・・あれは、ボディービルのポージングではないか、なんで、なんで、なんで・・・・こんな所で、ナンデヤネーン、ネコ・コマ・マリ・リンゴ!!」
そして、フロント、バック、フロントと、ニヒルな笑みを浮かべながら、次々とポージングを決めて行ったのだ。
「何んなんだ、これは何んのマネなのだ、わからない、わからんぞー・・・ゾーサン、ゾーさんお鼻が長いのねー、そーよ、お母さんも長いのよーん・・・・!!」
私の思考は混乱して、半分、ヤケクソになっていた。
「サイドチェスト、アブドミナル&サイ、サイドトライセブス、モストマスキュラー・・・・・・・フロント、バック、フロント・・・・・!!」
目には目、ポージングにはポージング・・・・・私は正々堂々と、二人の挑戦を受けることにした。
「胸筋の厚みをアピールするサイドチェスト、腹筋と足を強調するアブドミナル&サイ、上腕三頭筋を強調するサイドトライセブス、僧帽筋や肩、腕、胸の太さを強調するモストマスキュラー・・・・・・・!」
こんな時こそ、通販のシャバネット・ハゲタカで買ったダンベルが役に立つ。
わたしは、思いっきり筋肉をパンプアップさせて、二人を迎え撃ったのだ。
来月号に、つ・づ・く・・・♪♪♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス