第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(10)
南牧村の雨沢を過ぎる頃に、南の谷間に、突如としてバッファローの鋭い二本の角のような山が出現する。
それは、まるで天空を突き刺すがごとき異様な光景で、のどかな山村にあっては、なおさら驚嘆させられる。
すっかり情景になじんでしまっているためなのか、あるいは見て見ぬふりをしているだけなのか。
一瞬たりとものぞいてしまえば、決して忘れることのない光景であるが、そこに暮らす人々には、何ら変わることのない日常生活を営んでいるように思える。
厳冬期の冠雪した山は神々しく、すべてを飲み込んでしまうかのような圧倒的な存在感だ。
山の名は、標高1125メートルの碧岩と標高1133メートルの大岩である。
勧能から熊倉に向かう途中に登山口があるのだが、岩山へ登頂するためには居合沢を30分程歩いて、落差が50メートルもある三段の滝を超えなくてはならない。
悪戦苦闘して滝を這い上がり、10分ほど歩くと、ミドリ岩沢と居合沢に分岐する。
巨岩に囲まれた谷の水はあくまでも透明で、清らかな流れが上流へと続いている。
まるで、精霊の住む山のように思えて、なんだかファンタジックな気分になる。
時折、水面にライズが見えるので注視していると、煮干しみたいな小さなイワナが慌ただしく泳いでいるではないか。
川虫が羽化しているのか、空中を舞うカゲロウをさかんに捕食している。
これは真偽の程は不明であるが、昔、山籠もりをしていたカラテの達人が食糧調達のために、空中をジャンプした魚を蹴り飛ばして捕まえるシーンを思い出した。
静寂に包まれた山の中では、すべてが真実のように思えてくるから不思議である。
さらに、急登にあえぎながら進むと分岐があり、大岩・碧岩の標識に従い左のコースを進む。
やがて、稜線にたどりつくのだが、全面には巨大な碧岩が眼前に迫り来て、その存在感に圧倒される。
胸の高鳴りを押さえつつ、二か所のロープ場を超えると、やっとのこと頂上に立つことができるのだ。
眼下には、勧能の街並みが小さく見え、遠くには、荒船山や鹿岳、四ツ又山がはっきり見え、100万ドルの景観に、しばし疲れを忘れさせてくれる。
ここはまさに、「西上州のマッターホルン」だ。
登頂できた喜びに、思わず「八木節」を踊りたくなった。
何故なら、生まれも育ちも群馬県だからだ。
余談だが、他にも、「西上州のドロミテ」という岩山も存在する。
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さて、このシリーズのシナリオは幾つかあったのだが、ジミー隊長はドドメ・シリーズが大のお気に入りだった。
当時は、養蚕が盛んだったものだから、いたるところに桑畑があり、ドドメがバイキング状態で存在していたため、小道具を集めるには事欠かなかったからだ。
レスリングの試合前には、全員でバケツに収穫するのが恒例行事で、これから始まるであろうイベントに、皆、興奮していた。
周りの大人からは、生のドドメは危険だから食べてはいけないと言われていたが、美味しそうな赤い色の誘惑には負けてしまい、一つくらいは良いだろうと言って、全員が水洗いもせずに、そのまま食べていたのだ。
だが、一口たべたとたん、子供たちはその美味しさの虜になってしまう。
一個だけというのが、二個になり、そして三個、四個・・・・・・・ついには、たんと腹が膨らむまで食べてしまう。
だが、快楽の後には、地獄がある。
! グ・グ・ガ・ガ・ウ・ウ・・・・ク・ク・ク・・・ドッカーン・・!!
まさに、白雪姫の毒リンゴだ。
案の定、翌日には、ほぼ全員、下痢で苦しめられるのだ。
桑の木は、落葉樹の高木で、放っておくと15メートル位に成長する。
葉はハート形をしているが、小さなトゲが無数にあり、知らないで触ると、肌の柔らかな部分が、赤くかぶれる。
だから、さわる時は注意が必要なのだ。
桑の実は茎の先端から房状に垂れ下がり、白色、うす緑色、赤色、黒紫いろと、色を変える。
キイチゴのような柔らかい粒が集まった形で、熟すと黒紫色になり、とても甘いのだ。
当時は、養蚕と同じように畜産も盛んに行われていた。
今ほど衛生管理がなされていなかったため、大量のハエが発生し、それがドドメにつき、感染症を引き起こしていた。
ドドメはマルベリーと呼ばれ、果実酒の原料にもなり、果実は甘酸っぱく、高い抗酸化作用で知られるアントシアニンをはじめとするポリフェノールを多量に含有している。
ただ、ドドメを蛾の幼虫が好み、その体毛が抜けて付着するので、生食の場合は十分な水洗いが必要なのだ。
アダムとイブのリンゴのように、昔から、子供にとっては、禁断の果実だったのだ。
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このシリーズはドドメが収穫できる夏季限定のもので、秋になると枯葉・シリーズに変わり、悪役はハツになっていた。
ハツ助演のシリーズ物も、みごとに練り上げられていて、隊長身ずから指名をするほどだった。
人には各々、生まれつきの才能というものがあるようで、もっと近くに劇団ジャニーズがあれば、彼等はイナリ山に埋もれることなく、華やかな檜舞台に立っていたかも知れない。
ところで、隊員たちは枯葉シリーズへの参戦には、とても消極的だった。
あの貪欲なタケまでも、しり込みをしていた。
何故なら、このシリーズではドドメの代わりに、やたらと牛糞を投げつけるのものだから、ハツ以外は皆,敵前逃亡をしてしまっていたのだ。
それに、ナマに近い牛糞だったので臭いが濃く、いったんパンツに付着すると、悪臭がなかなか消えなかった。
このような状況の中、敢闘賞を獲得しようと、タケ以上に執念を見せていたのはハツだった。
彼の家は子沢山で、7人兄弟の長男だったため、食料調達係を母親から命じられていたのだ。
人は生きるためには毎日、何かしら食べなければならない。
自然界の中ならば、動物は朝から晩まで食糧を求めて野山をさまよう。
それは、ごく普通の行動だ。
しかし、人間社会では食糧の備蓄があり、余った時間は他の事に使用することができる。
でも・・・・・残念なことに、彼の家には蓄えがなかった。
7人兄弟という大家族が、一気に、食べつくしてしまうからだ。
まるで草花を襲うイナゴの大群のように、彼等が通過した後は不毛の砂漠になってしまう。
そのため、ハツは敢闘賞を獲得しようと、母親の使い古した赤い毛糸のパンツに穴を空け、兄弟の思いを一身に背おい、ナゾの悪役覆面レスラー「レッド・パンサー」に変身して、リングに上がったのだ。
蛇足ではあるが「レッド・パンサー」と言う名は超カッコ良いが、「赤パンツ」というリングネームではイマイチなので、単にパンツをパンサーにしただけなのだ。
もちろん、彼の与えられた必殺技は「フライングソーセージ」だった。
全体重を利用して体ごと相手に飛びかかるワザなのだが、ハツ君はアバラ骨の浮き出た栄養失調のため、逆に投げ飛ばされてしまい、あまりダメージを与えることができなかった。
そのため、チョークスリーパーで隊長の首をやたらと締めつけて、レフリー役のトラオから何度も注意されていたが・・・・・これも、ドラマを盛り上げるための、ニクイ演出だったような気がする。
四角いリングの中で、ところ狭しと暴れまわるタケ君・・・・・しかし、表情とは裏腹に、彼にはとても悲しい物語があったのです。
がんばれ、ナゾの覆面レスラー「レッド・パンサー」!!
キミは兄弟たちの希望の星、高く輝く北極星、まさにイナリ山の二宮金次郎だ。
・・・・・心優しきハツ君については・・・いつかじっくりとお話をしましょう。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。 
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス