第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(14)
「西上州のドロミテ」と呼ばれる立岩に向かうには、羽沢のバス停を右に曲がらなければならない。
20分ほど車に揺られ、細いアスファルト道を行くと、星尾大橋にたどりつく。
そこから見上げる立岩は圧巻で、まるで巨大な二つの「おかき」をドカンと天井に並べたような景観だ。
手前が東立岩で、後方が標高1265メートルの西立岩の岩峰だ。
登山口には星尾川が流れ、そこには落差30メートルほどの線ヶ滝がある。
一条の滝は、登山者の心をとても癒してくれる。
ここから10分ほど歩くと、ほどなくして中級者コースという標識に出会う。
気持ちを引き締めて、一気に直登すると、40分ほどで立岩の入り口にとりつくことができるのだ。
しかし、尾根にたどりつくには20メートル程の長いクサリにつかまって登らなければならない。
まるで、表妙義山の「カニの横這い」のようだ。
悪戦苦闘の末、尾根に這い上がると、眼下には大上の集落が小さく見える。
緑色に染まる山々の谷間の中に、まるで、おとぎ話の世界のような家屋が点在するのだ。
そこには春夏秋冬、鮮やかに色を変え・・・ひっそりと・・・あたかも外界を遮断するかのように、時間だけが静かに流れているのだ。
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「ココちゃん、オママゴトあそびはそこまでダンス・・・・ハネちゃんが、許さないダンスよ・・・・・!!」
「ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・・・許さないのは、こっちの方だよ・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・・!!」
いきなり、オカッパ頭の金色のムチがニョロニョロと延びて、オレンジボールに絡み付いてきたのだ。
「どうだい・・・動けるかな・・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!!」
「ココちゃん・・・ココちゃん・・・止めるダンス・・・止めないと、プンプンになるダンスよ・・・!!」
「ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・プンプンって・ド・ウ・ナ・ル・コ・ト・カ・イ・・・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!!」
執拗に、金色のムチは、オレンジボールをグイグイと締めあげていった。
強力なパワーに圧倒されて、それは、楕円状に変形していったのだ。
「ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・・・もう一つ、プレゼントをしましょうね・・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・・・!!」
天空より雷鳴とともに、巨大な光の束がオレンジボールを包んだのだ。
「これで、日焼けはバッジリでーす・・・健康のために、UVをしっかりあびなさーいね・・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!!」
光に包まれたオレンジボールは、突如として外部から溶解しはじめていった。
「もう、限界ダンス・・・ゲンカイ灘ダンス・・・ピーマン・ダイコン・ぶりダイコーン・・・・・あんたの父ちゃん大デベソー・・・!!」
少しづつ溶解していたオレンジボールが、オカッパ頭を中心にグルグルと回転を始めたのだ。
徐々にスピードが上昇して、やがて渦巻状になり、人間の目では追えなくなっていった。
「これは大変、一大事・・・・モグ・モグ・モグ・モグ・・・マントヒヒ・・・!」
私は、胸のポケットから、以前発明をした「オタスケ・グラス」を取り出したのだ。
グラスは、光速物体を観察するために開発したものだ。
「な・な・な・な・・・・なんと・なんと・・・オカメ納豆・・・!!」
私は、何度も瞬きをして、その現象を注視した・・・・・!
・・・・・こんなことが、存在するのか・・・・私は、自分の目を疑った。
「オタスケ・グラス」を装着したにもかかわらず、オレンジボールをとらえることができなかったのだ。
「そんな・バナナ・・キュウイ・パパイヤ・ナス・カボチャ・・・ちゃんカワイイ・!」
ニュートン力学では、決して説明できない現象だった。
そうだ・・・これは、以前から私が提唱していた相対性理論を超える、「ナンダ・カンダ・イナリ山現象」ではないだろうか?
やはり・・・・・高速を簡単に超えることは可能だったのだ・・・・・フム・フム・ネコ・フムジャツタ・・・・?
その時だった。
「やめなさい・・・・やめなさい・・・やめなさーい・・・!」
坊主頭のキナサが立ち上がり、いきなり大声で叫びはじめたのだ。
「みんな、仲良しでしょー……争っては、だめー…争っては、だめなんだー!」
エキサイトしている二人には、キナサの声など届かなかった。
キナサは、静かに、空中に両手を広げて、戦闘をしている二人をロックした。
数秒後・・・・・・・・・・・蒼白い閃光が放された。
パチ・パチ・パチ・パッチーン・・・・・パチ・パチ・パチ・パッチーン!!!
!!!!!!!!
マリン・ブルー・エナジー・・・・・・・すべての邪悪なパワーを消し去るエナジー・・・・・穏やかな気分・・・・・・心が洗われる・・・・・・・そう快な・キ・モ・チ・・・・・
私は一瞬、過去に飛び込んだ。
西上州の高岩、ナイフリッジ状にキレ落ちた尾根・・・標高1265メートルの西立岩の山頂・・・・・・・・・・!!
反転する過去のシーンの中・・・・・・そう、以前、坊主頭のキナサに似た少女に会ったような気がした・・・・・。
・・・・・いや、会った・・・・そこに、いっしょにいたような・・・いや、確かにいっしょにいたのだ・・・・15年前の夏、・・・・天空に輝くミルキーウエィ・・・・それを、二人で見ていたような気がする・・・!!
今、そのページが・・・・・スクリーンのように、脳裏に・・・・・走馬灯のように、よみがえったのだ。
この不思議な感覚・・・胸の鼓動・・・私は、いったい何を覚醒しようとしているのだろうか・・・・・?
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス