第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(15)
鹿岳と書いて「かなだけ」と読む。
この山へ登頂するには、道の駅「オアシスなんもく」の手前を右折しなければならない。
のんびりと車で10分ほど西へ走ると、やがて大久保集落に到着する。
ふと、谷間から見上げると、頭上には巨大なモンスターのような2個のココナッツを山頂にズドンと突き刺したような岩峰が出現して、人々の目を圧倒する。
これが、不思議な魅力を持つ山、鹿岳だ。
その、存在感は人々の心を揺さぶり、誰もが登山にかりたてられることだろう。
鹿岳は二つの岩峰、一ノ岳と標高1015メートルの二ノ岳からなっている。
下高原の登山口から入ると、ここより90分と標識に書いてあるのだが、道はすべて急登である。
植林された暗いスギ林を、息を切りながらゼイゼイと進むのだが、登るにつれて傾斜角度が大きくなる。
やがて、コルに近づくころになると、10メートルほどの細いロープが突然あらわれる。
これをなんとかクリアーすると、分岐にたどりつくことが出来るのだ。
右が一ノ岳で、左が二ノ岳である。
太いロープにつかまり足元を固めながら慎重に進むと、5分ほどで一ノ岳の山頂に立つことができる。
山頂からは、南牧村や下仁田町の家並みが、まるでレゴブロックを並べたかのように、小さく見えるのだ。
雲の切れ間からもれた光により、山々が時間の経過とともに、刻々と色を変える。
この美しさは・・・まるで、白昼夢のようだが・・・しばし時間の経過を忘れてしまう景観である。
そっと眼下を覗き込むと、思わず吸い込まれそうな感覚を抱いてしまうのは、私だけではないだろう。
!!!!!!!
二百万本はあっただろうか。
私の背丈に届きそうな、赤・白・ピンク・黄色の色とりどりのコスモスたちが、荒戸川の河川敷に咲き乱れていた。
その中は迷路状になっていて、笑いながら、ひたすら走っていた。
ただ、楽しかったのだ・・・・・・そうだ、「おにごっこ」をしていたのだ。
どうしても相手の名前は思い出せなかったが、おそろしくかけっこが早い奴だった。
オリンピックに出場していれば、間違いなく優勝していたであろう。
全速力で走っていたが、・・・・・・第三カーブの手前で、とうとう私は追いつかれてしまった。
「ハカチェくーん、つかまえたぞー・・・・・・?」
追いついた瞬間、私は後髪を掴まれてしまったのだ。
「しまったー・・・・・・!」
頭に手をやったが、すでに手遅れだった。
相手は、私のズラを左手で握りしめて、何か悪い事をしまったかのように、茫然と立ちすくんでいた。
「ウエーン、ウエーン・・・ウエンツ・英一・・・ウエーン、ウエーン!」
私は膝小僧を抱えて、大声で泣き叫んでしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」
相手は、何度も謝ったが、私は泣いているばかりであった。
やがて、泣き止まぬ私に、相手も泣き始めた。
「ウエーン、ウエーン・・・ウエンツ・英一・・・ウエー、ンウエーン!」
二人の泣き声が、コスモス畑.に響き渡っていた。
「・・・ハカチェ君、大丈夫よ・・・私の星では、みんなハカチェ君と同じよ!」
相手は、申し訳なさそうに、私をなぐさめた。
「そんな、バカな!」、私の星という言葉が、とてもおおげさに聞こえたのだ。
「私の星って、どこなんきゃー・・・そんなところが、あるんきゃー・・・?」
イジワルな質問に相手は一瞬たじろいたが、やがて顔を空に向けて、ぽつりとささやくようにつぶやいた。
「海王星・・・第一衛星トリトン・・・・」
瞬間、大粒の涙が、頬に流れた。
頭の髪の毛が極端に短かったため男の子と思っていたが、よくよく見ると女の子だった。
人を引き付けるような大きな目が、とても印象的だった。
何度も名前を呼ぼうとしたが・・・・どうしても、声が出なかったのだ。
!!!!!!!!
「だいじょうぶよ、だいじょうぶよ・・・・・だいじょうぶよ・・・!」
あたたかな涙の雫が、わたしの頬に落ちてきた。
誰だろうか。
必死に、誰かが語りかけている。
そして、ツリピカ頭を優しくなぜているではないか・・・?
はっとして、目を開けると・・・そこに、さきほどの少女がいた。
過去から、舞い戻ってきたような不思議な感覚だった。
私は、何度もまばたきをした・・・・・・・が・・・・さきほどの少女だと思ったが・・・・・・・・・坊主頭のキナサだった。
知らないうちに、キナサの膝枕に乗っていたのだ。
私の安全を確認したのだろうか・・・・キナサは、少し微笑んで、弱々しく後方へ倒れてしまった。
まるで、すべてのエナジーを、使い果たしてしまったかのようだった。
過去、現在、未来・・・・・いまだ、覚醒してはいない。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス