第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(17)
「男は、やる時には、たんとやらなければならねんべなー!」
秘密基地のある牛小屋に到着すると、ジミー隊長は顔を赤く染めて粋がっていた。
「ハカチェ、止めるんじゃねーぜー・・・オメーも知っているようになー、オレは、やると決めたからには、絶対にやる男なんだ・・・そうだんべー・・・いいか、絶対に止めるんじゃねーぞー!」
彼は、父親の権さんが農業委員選挙に立候補したときに使用していた必勝ハチマキを頭にきっちりと巻き着けて・・・タスキ掛けのつもりだろうか・・・荒縄をクルクルと背中に巻き付けていた。
それは幾何学模様を描いていて、隊長にしては随分器用な巻き方だった。
後年、正直屋のブックコーナーの片隅にあったマニアック本で知ったのだが・・・・・たしか、「亀甲縛り」というものだった。
父親の権さんが、岡本本家の「キンカメ」を飲み過ぎて暴れ回るものだから、母親のカネコさんといっしょになって縛りつけていたのだ。
あまりにもその回数が多かったために、しぜんと「亀甲縛り」を会得したようだ。
「隊長、今から何をやるんだんべか!」
ドン・ガバチョみたいな丸い顔をますます赤くして、機関車のように激しく鼻を鳴らしているジミー隊長に、思い切って問いかけてみた。
「あったりめーだい、ユウショウのためだー・・・!」
彼は滑舌が悪いため、何を言っているのか理解できなかったのだ。
「卓球の試合かーい!」
私の言葉に、たんとムカツいたようで・・・急に頭を抱えて激怒した。
「このー、キンピラ野郎―・・・・・何、言ってるんだー、タカとのユウショウに決まっているんだんべなー・・・オレは、ユウショウに生きる男なんだぜー・・・!」
同級生のタカと組んで、卓球の試合で優勝を狙っているのだと思った・・・が・・・どうやら違ったようだ。
「んじゃー、バトミントンの試合かーい!」
また、問いかけてみたが、同じ答えが返ってきた。
「このー、キンピラ野郎―・・・・・何、言ってるんだ、タカとのユウショウに決まっているんだんべー・・・オレは、ユウショウに生きる男なんだぜー・・・!」
あまりの滑舌の悪さに、なかなか理解することができなかったが・・・・・どうやら、彼の言わんとしているところは、優勝ではなくて友情のようだった。
タカのために、何かをやらかすようなのだ。
そうなのだ・・・・・今、イナリ山で一番「熱い男」を自認するジミー隊長が、まさに友情のために、この牛小屋で立ち上がる瞬間だったのだ。
「隊長・・・カッコイー・・・ガンバッてくんねかいねー!」
私は、思わず拍手をした。
彼は急にゴキゲンになり、頭をゴシゴシと荒縄でシゴいた。
「隊長・・・今からシメるんかーい!」
これが、彼の待っていた最高の問いかけだったのだ。
「あー、そーだ、そーなんさ・・・イシとギュウが、オレの友達にちょっかいをだしてなー、早いうちに、シメておこうと思ってなー・・・下級生のクセに生意気なんだよー、あのドドメ野郎たちめー!」
彼等は隊長より一学年下の5年生だったが、学校では名の知れた暴れん坊だった。
いつも上級生にケンカを売っては、ボコボコにしていたのだ。
体が小さいので、皆、油断してしまうのだろう。
ナメてかかると、簡単に返り討ちにあってしまう。
彼等はバツグンの運動神経とコンビネーションで、相手をノックアウトしてしまうのだ。
まさに秒札・・・華麗なるヒットマンだった。
「隊長・・・大丈夫なんかい・・・ヤバイんじゃねーんかい・・・!」
「パ・パ・パ・パ・・・パパ81・ママ72だんべ・・・オレにかなう奴なんて、この世にはいねーぜ・・・そうだんべ、ハカチェ・・・!」
彼は、自信満々だった。
それもそのはず・・・正直屋の一人息子で、おいしい高カロリー食で育った隊長は、小学6年生にして、身長165㎝、体重80㎏の、りっぱな体格の持ち主だったのだ。
体格や風貌では、彼の右に出る者はいなかった。
何故なら、口の回りには、ホモオダホモオみたいに青くヒゲがはえて、すでに小学生にして中年オヤジの貫録が備わっていたからだ。
「隊長、この前、スギがやられていたぜ・・・!」
スギは私と同じ4年生で、最近までは大将だったが、イシとギュウにシメられて、急におとなしくなってしまった。
「パ・パ・パ・パ・・・パパ81・ママ72だんべ・・・」
彼は、しばらく豪快に笑い飛ばしていたが・・・・・急に顔色を変えて、店の方へ走って行ってしまった。
そして、店の品物であるタイワンバナナを一房持ってきたのだ。
10本ほど付いたみごとな房から1本を切り取り、私にそっと手渡した。
「ハカチェ・・・・・少年ホースを集合させてくんねーかな。」
ジミー隊長はニヤリと微笑んで、バナナを1本追加した。
彼は、急に不安になったのだろう。
私が思案をめぐらしていると、またしても、バナナを1本追加してきたのだ。
それでもとまどっていると、また1本、また1本・・・・・とうとう全部のバナナを手渡してきたのだ。
「いいか・・・・、勘違いするなよ・・・助太刀をしてくれと言うんじゃねーんだよ、オレの活躍を見ているだけでいいんだ・・・・・・・・・・・まー、もしもの時は、たのむぜ。」
やはり、そうだった。
小心者のジミー隊長は、勢いで言ってしまった事に対して、少し後悔をしているようだった。
私は、たんとプレゼントされたタイワンバナナを両手でしっかりとかかえ、おおきくうなずいたのだ。
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス