第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(22)
あまりの恐怖で自我が崩壊する寸前、タケは岩の突起部分に使い古した赤い毛糸のパンツを発見したのだ。
以前、誰かが着用していたものなのだろうか・・・おそるおそる手に取ってみると・・・・グァーーーーーーン!ク・ク・クーーーーーーン!コケケッコーーーーーーーーン!
たんと酸っぱい臭いがして、脳ミソがクルクルと3回転し、危うく、後方にひっくり返るところだった。
前面には、穴が2か所ほど空いていて、中央にシミのような跡があった。
思案をめぐらしていると、暗闇の中から「アンタは、レッドパンサー・サードになるのよ・・・アンタは、レッドパンサー・サードになるのよ・・・・!」という、遠い昔に死別した母親の声が聞こえてきたのだ。
「かあちゃーん・かあちゃーん・かあちゃーん・・・もしかして・かあちゃーん?」
彼は、優しかった母親を思い出して号泣した。
「かあちゃーん、この酸っぱい臭いは、やっぱりかあちゃんだんべー・・・そうだ、そうだ・・・こんな、えげつない臭いは、かあちゃんだんべー・・・!」
暗闇から聞こえる声は、タケを温かく包み込んだのだ。
「タケちゃん、強くなるのよ、あなたは兄弟の誇り、イナリ山の北極星、大猿渓谷のキング・・・・酸っぱい臭いなんて、どうでもいいのよ・・・・・レッドパンサー・サードになって、みんなを守ってあげてね・・・!」
・・・うれしかった・・・・その声を聴けただけで、たんとうれしかった。
しかし、別の方向から「かあちゃんじゃねえんだ、とうちゃんだー・・・・・かーちゃんじゃねえんだ、とーちゃんだー・・・!」と、彼の思いを否定する声が聞こえてきたのだ。
これは、たしか・・・・・・・父親の声だった。
「だって、とうちゃんは家で大酒を飲んでいるんべー・・・毎日、シンミセで岡本本家のキンカメを買ってくるぞー・・・それに、とうちゃんは、毛糸の赤いパンツなんかは、はかねんべなー・・・!」
「ハ・ハ・ハ・ハ・・・パパ81・・・ママ72だんべなー・・・・これは、スペシャルなのだ・・・・・何を隠そう、私が初代のレッドパンサーなのだ・・・・・ニャ・ニャ・ニャ・ニャーン・・・ニャンコ・ワ・ワ・ワ・ワーン・・・お前は、赤城山の大猿渓谷で三代目のレッドパンサー・サードになるために生まれてきたのだ・・・それが、おまえの宿命なのだ・・・ニャン・コロリーーーーーーーーーーーン!」
「うそだー・・・うそだー・・・うそだんべー・・・こんな酸っぱい臭いのパンツなんてかぶれねーぞー・・・ふざけんなー、こんにゃろーめー・・・!」
やがて、暗闇の中から聞こえていた矛盾に満ちあふれた声は、だんだんと小さくなり、どこかへフェードアウトしてしまった。
タケがどんなに叫んでも、決して答えることはなかったのだ。
!!!!!!!!!
彼は、相変わらずこだわっていた。
「・・・いんや・・・これは・・・・・かあちゃーんからの贈り物だ!・・・やっぱり、かあちゃんからの贈り物だ・・・とうちゃんじゃねーぞ・・・かあちゃんからの贈り物なんだ・・・こんな酸っぱい臭いは、かあちゃんだんべーーーーー・・・!」
半信半疑のタケは、毛糸の赤いパンツを手に持って空にかざしたり投げ捨てたりしていた。
その時だった。
洞窟の入り口から「ブヒ・ブヒ・ブヒ・・・ブヒ・ブヒ・ブヒーーーーーー・・・!」
という、一瞬で静寂を突き破る大きな声が聞こえてきたのだ。
見上げると、1時間前にタケに瀕死の重傷を負わせた体重が200㎏もあるイノシシ大王がそこにいたのだ。
タケの頭の中は、混乱していた。
もはや、とうちゃんだろうが、かあちゃんだろうが、誰でも良かった。
「このままでは、やられてしまう・・・このままでは、やられてしまうんべーーー・・・!」
錯乱状態に陥ったタケは、赤い毛糸のパンツを無意識のうちに頭からすっぽりとかぶったのだ。
「グワーーーン・ドスコーーーイ・カーーーカーーーカーーー・カキクケコンコン・コケコッコーーー・・・隣の客は・よくカキ食う・客だーーー・パートⅢ・・!」
突然、カミナリに打たれたような強烈な衝撃を受けた。
以前、正直屋の権さんが田んぼの中で体験したような金縛りにあい、全身から金色のイナズマが放電されたのだ。
やがて、ヤンケル皇帝液を1ダースも飲んだような・・・体の芯から燃え上がるエナジーが、たんと湧き上がり、何故かオネエみたいに左手の小指がピンと90度、持ち上ったのだ。
「グワーーーン・ドスコーーーイ・カーーーカーーーカーーー・カキクケコンコン・コケコッコーーーン・・・隣の客は・よくカキ食う・客だーーー・パートⅢ・・!ワタシには出来る・・・ワタシには出来る・・・ワタシにはできるわーーーーーー・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョーーーーーーーーーーーーン・・・!!!」
あり余る自信、でっかい勇気、底知れぬパワー・・・・・・・だが、残念なことに、・・・・・彼はあまりにも笑い過ぎて、うっかりアゴをはずしてしまったのだ。
来月号「に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス