第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(23)
タケは、いままでの迷いやこだわりが、ウソのように吹き飛んで、体の隅々までパワーがみなぎっていくのを感じていた。
ためしに小石をつかみ、イノシシ大王にむかって投げつけてみた。
すると、ピューと風を切りながら、思った以上の剛速球が飛んでいくのがわかった。
ところが、さすがイノシシ大王・・・・・体を横にヒネり、軽く見切ったのだ。
そして、彼をあざ笑うかのように、左足で地面を三度、蹴ったのだ。
今度は体を思いっきりヒネり、握り方を変えて,第二球を投げつけてみた。
すると、直前で石は大きな弧を描いて左右にユラユラと揺れて、大王の耳にピシャと当たった・・・・その瞬間 、ドス黒い血液がドキューーーンと噴き出たのだ。
ブヒョ・ブヒョ・ブヒョーーーーーーン・・・バ・ビ・ブ・ベ・ボーーーーーーーン!
さっきまで余裕をかましていた大王が、怒りの雄叫びを上げたのだ。
どうやら、闘争本能を呼び起こしてしまったらしい。
大王は、大砂塵を巻き上げて、急斜面を一気にかけくだり、あのサラ・タカナシのような大ジャンブをして、突進してきたのだ。
「アブナイ、タケ君、大丈夫かー・・・・キミは希望の星、イナリ山の宝、兄弟の命、・・・・・今こそ、真のレッドパンサー・サードに超変体するのだーーーーーーー圧倒的なパワーを見せつけてやるのだーーーーーーーーーーー・・!!!」
!!!!!!!
タケは、とうとう決断をした・・・・・少しずつ、少しずつ、両手で大きな円を描き・・・・・そして突然、クマのポーズを決めたのだ。
「レッドパンサー・サード・・・超変体ーーーーーーーーーーーーーーー・・・・!」
そのとたん、両手の小指がピーンと垂直に硬直して、タケの動態視力は飛躍的に向上したのだ・・・・・ゆっくりと・・・・・ゆっくりと時間が流れ始めた。
イノシシ大王が、まるでスローモーション映画のように、大きな弧を描きながら、何度も空中を飛んでいるのが確認できたのだ。
「いまよ・・・今田耕一・・・・見切ったわー・・・!」
タケは、風を切るように、頭上に向かって思いっきり貫手を繰り出した。
「ズボッーーーーーーーーーーーーン・・・・・!!」
確かな手ごたえがあった。
大王の下腹に、必殺の左手がめり込んだのだ。
タケは、小腸をギュウーーーーーンとワシ掴みにして、強引に引き抜いた。
・・・・・・・・しかし・・・・イノシシ大王は、何事もなかったかのようにドスンと着地をして、平然と暗い洞窟の奥へと消えていってしまったのだ。
恐るべし、イノシシ大王・・・・・タケは、肩で小刻みに息をしていた・・・・・
さっきまで闘争心をむき出しにしていたのだが、マスクを脱ぐと、急に恐怖を感じた。
周囲は静寂に包まれ、彼の呼吸する音だけが、大猿渓谷の洞窟内で大きくコダマしていたのだ。
もはや、イノシシ大王の「ブヒ・ブヒ・・・!」という声は、どこからも聞こえることはなかった。
!!!!!!!!!!
あらためて左手を見ると、イノシシ大王の赤く染まった小腸をしっかりと握りしめているではないか。
「勝った・・・勝ったんだ・・・・勝ったんだー・・・かあちゃーん・・・オレは勝ったんだ・・・・・かあちゃーん、勝ったんべー・・・!」
タケは、空中に左手を突き上げて、あまりのうれしさに、絶叫した。
「かあちゃーん、勝ったぜー・・・・・オレは勝ったんだぜー・・・・ありがとう、かあちゃーん・・・ありがとう、かあちゃーん・・・!」
すると、母親の幻影が壁面に浮かんできた。
「よかったね、タケちゃん・・・よかったね、タケちゃん・・・!」
優しかった母の声が、心にしみた。
そして、たんと酸っぱい臭いも、いつしか快感に変わっていた・・・・・それが、とても不思議だった。
「かあちゃーん、勝ったぜー・・・・・オレは勝ったんだぜー・・・・ありがとう、かあちゃーん・・・ありがとう、かあちゃーん・・・!」
ところが・・・別の方向から、母子の感動に水を差すかのように、おかしな声が聞こえてきたのだ。
「かあちゃんじゃねーぞ、とうちゃんだ・・・かあちゃんじゃねーぞ、とうちゃんだーーーーーーーーー・・・!」
・・・・・・ん・・・・・・ん・・・・・・誰だー・・・?
「かあちゃんじゃねーぞ、とうちゃんだー・・・かあちゃんじゃねーぞ、とうちゃんだー・・・おまえは、レッドパンサー・サードとして、とうちゃんの跡継として、りっぱに公認されたのだ・・・!」
母親との会話を邪魔されて、タケはおおいに腹が立たった。
「うそだー、うそだー・・・とうちゃんは、いつもシンミセで「岡本本家のキンカメ」を、たんと飲んで酔っ払っているんべなー・・うそつくんじゃねーぞー・・・オレは、とうちゃんなんかに公認してもらわなくてもいいんだー・・・非公認でいいんだーー!」
「ク・ク・ク・ク・クーーー・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハーーー・・・パパ81・ママ72だんべー・・・・これが現実なのだー・・・おまえは現実からのがれられねんだ・・・とうちゃん公認の、レッドパンサー・サードなのだーーーーー・・・・プヒー・・・
岡本本家のキンカメは、うんめーなー・・・プヒー・プヒーーーーーーーーーーー・・・・!」
二人の問答はしばらくの間続いていたが、やがて、父親の声は消滅して、洞窟には静寂が訪れたのだ。
タケは、大猿渓谷のイノシシ大王との戦いには勝利したが、何故か、やりきれない気持ちでいっぱいになっていた。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス