第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(27)
「・・・だ・だ・だ・・・だ・だ・だ・・・大丈夫ですか・・・?」
松尾松男の必死の問いかけに、うつむいていたキクさんが静に顔を上げた。
だが、何故か・・・・・彼女の目は、うつろだった。
キクさんの顔は、はるかアンドロメダ星雲の方角へ向いていたのだ。
「・・・だ・だ・だ・・・だ・だ・だ・・・大丈夫ですか・・・?」
なおも松尾松男は問いかけを試みたが・・・・・・彼女との間に、沈黙の時間だけが流れるばかりであった。
・・・・・・・その時だった。
「パキーーーーーーーン・パキ・パキ・パキ・パッキーーーーーーン・・・♡」
一瞬、二人の・・・・・二人の目線が、蝶々結で連結されたのだーーーーーー!
・・・♡・♡・♡・・・☆・☆・☆・・・ピカーーーン・ピカーーーン
「イヤーン、ぼっこーん・・・・・・・フニャ・フニャ・フニャ・・・・♡」
彼女は、両手で顔をおおい、ふたたび、うずくまってしまった。
・・・この、気持ち悪いミステリアスな間はなんなのだろうか?
松尾松男が再度話しかけても、キクさんは顔を紅潮させ、うつむいているばかりであったのだ。
「あのー・・・君の名を、教えて下さい・・・君の名を、教えて下さい。」
松尾松男は繰り返し・・・・・そして、懇願するように問いかけてみたのだ。
「あのー・・・君の名を、教えて下さい・・・君の名を、教えて下さい・・・・教えて・・・・・教えてくたさーーーーーーーーーい・・・・・!!」
・・・♡・♡・♡・・・☆・☆・☆・・・ピカーーーン・ピカーーーン
―――――――いやだーーーん、キミだなんてーーー・ぽっこーーーーン!
またしても、二人の目線が・・・蝶々結で連結されたのだーーーーーー!
彼は、増幅された気持ち悪い間に、いたたまれなくなっていた。
一方、キクさんはというと、松尾松男の度重なる問い掛けと魅惑のハイトーンボイスにより・・・・・あっさりと、アワを吹いて失神してしまったのだのだ。
!!!!!!!!
・・・・・・・・今ふたたび、彼女は雲上人になっていた。
そうなのだ・・・・・あこがれの松男様が・・・ここに・・・ここにいるのだ。
なにより、愛しの彼が、名前を尋ねているではないかーーーーーーー!
やがて・・・・・・♪ ラー・ラー・ラ・ラーラ ♪・・・・・・再び、どこからともなくスピニングワルツの甘い調べが聞こえて来た。
キクさんは、松尾松男にエスコートされ、突然、イナリ山の舞踏会に華々しくデビューを果たすのだ。
周囲には、岡本本家の清酒キンカメに酔いながら、ゴキゲンで語り合うイナリ山のセレブたちがいた。
カメ師匠・ツル先生・権サン・ダイサン・カネコさん、イノクマさん・・・・・皆、イナリ山の歴史に大きな爪痕を残した偉人たちだ。
・・・・・驚いたことに、彼等はイナリ山音頭しか知らないはずなのに、いまそこで華麗にステップを踏んでいるではないか。
そう・・・・・それは、すべては夢の中・・・・・愛の白昼夢だったのだ。
!!!!!!!!
・・・・・・キクさんは、松尾松男の何度目かの問いかけで我に返った。
まるで走馬灯のように・・・・・何故か偶然にも、昼メロを思い出したのだ。
それは、昭和の映画史上に燦然と輝く名画「君の名は」だった。
今までに何度もリバイバルされて、つい最近もテレビドラマでもやっていたものだ。
昭和20年5月24日の東京大空襲の夜、橋の上で互いに命を助けあった後宮春樹と氏家真知子は、半年後の24日の夜、この橋の上で再会しようと約束をする。
青年は、別れぎわに「君の名は」と聞いたが、彼女は名を言わずに立ち去った。
「忘却とは忘れ去ることなり、忘れ得ずして、忘却を誓う心の悲しさよ。」
という、有名なイントロが冒頭に流れていた。
「こんなにも残酷な悲恋が、何故存在するのだろうか。」
キクさんは頭に手拭いを巻いてマチコ巻にし、昼間から大量の涙を流していたのだ。
そして思いっ切り、鼻をチーーーーーンとかんだのだ。
・・・・・もしかして・・・・・松尾松男も昼メロを見ていたのだろうか。
キクさんは思い出したように、のっそりと立ち上がり、「君の名は」という彼の問いかけに答えることもなく、イナリ山へと走り去ったのだ。
彼女は、完全に氏家真知子になりきっていたのだーーーーーー!
「イヤーン、ぼっこーーーーん・・・・・・・フニャ・フニャ・フニャ・・・・♡」
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス