第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(31)
ミライースが上底瀬の集落に入るころになると、突然、北側に巨大な岩壁が出現する。
そう・・・あれは、五老峰の一つである、九十九谷だ。
上底瀬にある無名の沢を15分ほど登り詰め、傾斜角が45度を超えるであろう山道を30分ほど這い上がると、尾根上の分岐点にたどり着く。
やがて東に5分ほど登り詰めると、標高767mの鷹の巣山頂だ。
そこからは標高899mの富士浅間山と、はるか眼下に下底瀬と上底瀬の集落が、まるでレゴブロックのように小さく見えるのだ。
・・・・・・・何かに驚いたのだろうか、時折、けたたましく犬の鳴き声がする。
それは、エコーとなって山の間に響いていた。
遠く六車の方に目をむけると、小さな白い煙がユラユラとたなびいている。
寒い冬、老夫婦がたき火を囲んで、この時期のために貯蔵しておいたベニアズマを焼いてきながら談笑しているのであろうか・・・・・何故か、その光景が素直に目に浮かんできた。
風の音、鳥のさえずり、木々の摩擦音・・・・・時間だけが、ただ静かに、そしてゆっくりと過ぎて行く。
気を取り直して観音岩へ向かうコースに歩を進めると、南側がスッパリと切れ落ちた異様な岩稜の上におどり出た。
南に垂直に切れた落ちたギガ岩稜の集合体・・・・・これこそが、五老峰の一つである九十九谷だ。
ずっとながめていると、大きく湾曲した谷は、まるで巨大な凹面鏡のように見える。
太陽の光を反射して、その焦点は、はるか南にそびえ立つ標高1080mの大屋山へと向かっているのだ。
!!!!!!!!!!
・・・・・強烈な光のエネルギーの束が山頂に届くとき、九十九谷の岩壁がかすかに歪んだように見えた。
・・・・・突然、どこからともなくモスキート音のような高域周波数帯の音色が聞こえてきたのだ。
だが、周囲を確認したものの、発生源は不明であった。
・・・・・再び高音が聞こえてきた・・・・感覚を研ぎ澄ましていると・・・なんと、私のそばにいる坊主頭の少女か発したものだった。
彼女の全身から、強烈な波動が・・・・小さく、大きく、モスキート音のうねりと共に発せられていたのだ。
やがて、五老峰全体が共鳴しているかのように時空がざわついた・・・・・そして、歪んだその空間から、褐色の翼竜が飛び出してきたのである。
「さあ、行くわよー・・・」
坊主頭の少女の目がいきいきと輝き、つぶやくように私に語りかけてきた。
翼竜は大きな翼を羽ばたかせて、まるでフクロウのように音を立てずに、静かに、そしてゆつくりとこちらに近づき、空中でホバリングし静止したのだ。
「あ・あ・あ・・・あぶない・・・あぶないよー・・・!」
私は、思わず叫んでしてしまった・・・・だが、少女はただ笑っているだけだった。
「心配しないで・・・さあ、手をつないで・・・!」
「あ・あ・あ・・・あぶないよ、キイナ・・・止めておこうよ・・・!」
!!!!!!!!
キ・イ・ナ・・・・・キ・イ・ナ・・・・そうか、そうだったのか・・・少女の名前は・・・キ・イ・ナ・・・だったのか・・・?
毎夜、夢の中に出てくる人影・・・・私に語りかけてくる・・・・知っているようで知らない・・・・キ・オ・ク・・・・必死に思い出そうとした名前が、今,脳ミソのスクリーンに映しだされたのだ・・・・・あれは、故意に消されてしまった記憶だったのだろか・・?
・・・私の前頭葉に浮かび上がった人物・・・たしか・・・以前、夏の夜、西立岩の山頂でミルキーウェーを一緒にながめていたような気がする。
・・・・・心に引っ掛かっていたトゲのような思い出・・・・・走馬灯のように、・・・今、少しずつ覚醒しつつあるように思えたのだ・・・・・!
「キイナ・・・怖いよ・・・止めとこうよ・・・!」
「男だろう・・・ビビッているんじゃねーよ・・・!」
そう言うと、彼女は強引に私の手を掴み、有無を言わさず翼竜に向かってジャンプしたのだ。
「ウーーーーー、ウーーーーー、ウーーーーーー・・・!」
着地したとたんに、翼竜が、大声で吠えた。
一瞬、エレベーターのように上空へフワリと舞い上がったのだ。
「いいかい、しっかりと私に捕まっているんだよ・・・!」
キイナは、諭すように言った。
私は、ありったけの力を出して彼女にしがみついたのだ。
翼竜が再び「ウーーーーー、ウーーーーー、ウーーーーー・・・!」と、吠えた。
そして、スパイラル曲線を描きながら、あの歪んだ空間に向かって一気にダイブして行っだのだ。
私は恐怖のあまり、何度も失禁をしてしまい、ズボンがビショビショになってしまった。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス