第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(35)
クメについての第3の謎は、たんと無口であったことである。
周囲からの問いかけに対しては、ただ頭でうなずくか、首を横に振るか、あるいは、ダンマリを決め込むか・・・トラオがたまに冗談を言った時に、ネコのピーみたいにニヤリと笑う事があるくらいだった。
そのため、団員たちはクメの声を聴いたことがなかったし、身長の割には存在感が極端に薄かった。
いつも牛小屋の端っこにいたために、当初は、団員も高身長に注目して驚いていたのだが、そのうち空気みたいな存在になり、誰もイジルらなくなった。
こんな無口な家庭とは、どんなものなのだろうかと考えてはみたが、たんと想像がつかなかったのだ。
そして、クメの第4の謎は、驚異の大食漢だったことだ。
秘密基地には正直屋の売れ残りである果物が沢山あったが、どれも腐敗寸前のものばかりだった。
クメは食物の状態に関係なく、満腹感が得られるまで徹底的にガッツいた。
脳ミソをやられているのか、あるいは極度の空腹感からなのか・・・それは、さながら骨の髄まで食べつくす、ハイエナのような状態だったのだ。
「おい、そんなにガッツクと腹が痛くなるぞー、いいかげんにしろよー!」
トラオがあきれた顔をして忠告をしたが、まったくおかまいなしだった。
まさに、元祖フードファイターだったのだ。
・・・・・が、そのうち、腹を抱えて倒れ込み、ヒクヒクと体を震わせて、のたうち回っていた。
「だから言ったんべなー、ガッツくんじゃねーよ・・・おたんちん野郎めー・・・おい、ハカチェ、病人がでたぞー・・・なんとかしろやー!」
トラオが、軽蔑した顔で叫んだのだが・・・「ガッツくんじゃねーよ!」という言葉が、私にはとても滑稽に聞こえたのだ。
何故なら、ここにいる少年ホースの団員は正直屋の残飯を目当てに集まった者ばかりであったからだ。
クメと同じように、一度や二度は腹痛を起こしていたからだ。
私は秘密基地の救護係として、常備していた富山の薬「くまのい」をクメに与えた。
「くまのい」は漢方薬で、これは正直屋の廃物の中から見つけた物だった。
たぶん、在庫整理のために処分したものだろう。
袋はホコリをかぶっていて、ずいぶん古いものだった。
薬にも消費期限というものがあるのだろうが・・・・・しかし、「くまのい」の効果は絶大だった。
何故ならば、クメはヤンケル皇帝液を飲んだ時のように一服盛ると、ピーーン・ピーーーーン・ピーーーーーンと回復したからだ。
その様子を見て、少年ホースの団員たちには、消費期限など関係がないと、私はあらためて確信したのだ。
しばらくすると、クメは懲りずに、ハイエナのように、またガッツきはじめたのだ。
!!!!!!!
・・・・・・クメとの遭遇は・・・まさに、未知との遭遇であった。
私は、4年生に進級した翌日、通学途中で道端に倒れている人間を発見したのだ。
最初は、巨大な倒木かと思ったが、上下に呼吸をしていたので、やはり人間だと判明した。
何らかの事件に、巻き込まれたのだろうか?
該者を注意深く観察してみると、前頭部から出血をしているではないか。
当初、テレビのプロレス番組で、ラッシャー木村がいつも流血をしていたので、この倒木は、金網デスマッチで負けたプロレスラーではないかと思った。
しかし、倒木はシングシューズもリングパンツもはいていなかったのだ。
すり切れたズックと、穴の開いた体操着を身に着けていて、ひどくみすぼらしい恰好をしていたのだ。
私は、少年ホースの救護係として、クスリ箱を常備していたので、赤チンで消毒して、包帯をグルグルと巻いてやった。
一段落したので、冷静になって被害者を観察してみると、身長からして高校生のように見えたのだが・・・身なりの汚さ、栄養状態、独特のオヤジカットから判断して・・・
これは、隣のクラスに在籍するクメだと確信したのだ。
頭上を点検すると、壁に突起物があり、そこに血液が付着していた。
ふつうの子供ならば、何事もなく通過してしまうのだろうが、クメは高身長のため、激突してしまったのだろう。
私の適切な判断で人命救助に成功したと、たんと満足感にひたっていたのだが・・・・・
ウィーーーン・ウィーーーー・ウィーーーーーン・・・倒木がヒクヒクと動き出し、突然、ニューと立ち上がったのだーーーーーー!・・・ウィーーーン・ウィーーーーーン・ウィーーーーーーーン、まるで、鉄人28号のように巨大な物体が、動き始めたのだーーーーーーーー!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー。
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス