第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(49)
モアイの全身から、粘度の高い溶岩状の糞尿が、ポタリ・ポタリと落下していた。
異様な光景と強烈な悪臭のため、私はあやうく過呼吸状態に陥りそうだった。
・・・殺伐とした風景、黄泉の国に迷い込んだような恐怖、出口のないパラレルワールド・・・・・
不安と恐怖で、心が押しつぶされそうだった。
・・・・・唖然として、ただ眺めていると・・・
・・・・・突然、モアイがニコリと笑ったような気がした・・・!
怒ったような、笑ったような・・・顔の表情に、なんらかの変化が起きたのだ。
瞬間、恐怖が急激に増幅して、私は10秒程失神してしまった。
・・・薄れゆく思考回路の中で・・・モアイの顔が・・・走馬灯のように回転して行った。
・・・面長の顔、オヤジカット・青いジャージ・・・・・・!
・・・面長の顔、オヤジカット・青いジャージ・・・・・・!
どこか、何かと重なるワードがあるような気がしたのだ。
・・・面長の顔、オヤジカット・青いジャージ・・・・・・!
・・・面長の顔、オヤジカット・青いジャージ・・・・・・!
そうだ、そうなんだ・・・これは、これだろうーーーーーーー!
もしかして、もしかして・・・・・トンカツ屋の酉蔵さーーーーん・・・!
散髪屋のイツパチさーーーーん・・・納豆屋の馬次郎さーーーーん!
モアイはチノビだと思っていたのだが・・・・・実は、実は、クメだったのではないだんべかーーーー・・・カニのカニ山さーーーーーん・・・そうだんべなーーー!
私は、恐る恐る問いかけてみたのだ。
「お・お・お・おめーは、クメだんべー・・・そうだよな、クメだよなー・・・!」
すると、モアイがニコリと笑ったのだ。
なんて・・・なんて不気味な微笑なんだろうか・・・!
私はこの時、確信したのだ。
モアイの正体はクメなんだ、クメだったんだ・・・やっぱり、クメだったんだーーーー・・・クメちゃーーーーん・クメちゃーーーん・・・!
・・・クメは、生きていたのだ。
疑いもない・・・超人クメは、黄泉の国から舞い戻って来たのだ。
私は、歓喜のあまり思わず駆け寄り、糞尿にまみれた大木にすがりついたのだ。
次から次へと、涙が湧いてきた。
生きていてよかった、生きていてよかった、クメちゃーーーん、クメちゃーーーん!
すると、クメも力強く抱きしめてきたのだ。
感動の再会はしばらく続いた・・・が・・・強烈なダキシメのために、アバラ骨が折れそうで、息苦しくになってきた。
「おい、骨折するぞ・・・力を緩めろ、息ができねーぞ・・・!」
笑いながら問いかけると、クメは少しずつ、力を緩めて行った。
!!!!!!!!
その地点から、500メートルほど南下すると本流の利根川に出る。
支流の宮川と合流した場所は、広い浅瀬になっているので、そこでクメを洗浄することにしたのだ。
クメは相変わらずの無口で、これだけの大事件に遭遇しても、言葉を発することはなかった。
何事にも動じないその姿勢は、将来の大物を予感させ、私はあらためて尊敬の念を抱いたのだ。
「おめーは、スゲーなー・・・よくぞ、あっこから抜け出せたよな・・・しかも、オレをかかえてだぜー・・・すごすぎるぜー・・・命の恩人だぜー・・・!」
しかし、クメはニコニコしているだけで、声を出して大笑いすることはなかった。
そして、歩くたびに糞尿がパラパラと落下した。
仮に、隊長の言うチノビが存在するとするならば、簡単に尾行されていただろう。
「チノビは卑怯者だ、汚ったねえ野郎だ、プタ野郎だ・・・!」
いつもの隊長の口癖を思い出して、思わず吹き出してしまった。
!!!!!!!
・・・ふと・・・気が付くと・・・知らないうちに、クメが私の手を強く握りしめいていた。
妙な違和感・・・何か、勘違いをしているのだろうか・・・?
意味不明な行動に一瞬とまどったが、命の恩人なので、なんとかガマンをしてそのまま歩いて行ったのだ。
やがて、心地よい水の流れる音が、わずかに聞こえて来た。
・・・利根川は、もうすぐそこだった。
バンビー。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス