第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(50)
北にそびえる、はるか奥利根の山々は、うっすらと雪化粧をして、早くも冬支度を始めた様に思えた。
そこに水源を持つ利根川の水は一年を通して清らかで冷たく、いくつもの用水に引き込まれて、イナリ山の田畑も潤していたのだ。
春はウグイ、サクラマス、夏はアユ、ウナギ等、さまざまな魚類が遡上し、それらを追いかける子供や大人たちで川はにぎわっていた。
カメ師匠はウナギ漁が得意で、シーズンになると特大のウナギを捕まえて素焼にし、岡本本家の清酒キンカメでグイーーーーン・グイーーーーンと、ゴキゲンにやるのが日課だった。
なんてウマそうな食材だろうと思ったが、子供にはなかなか捕まえることが出来ず、その光景を見て、ただただ、ツバを飲み込むだけであった。
時折、焼いたウナギの骨を子供たちに分けてくれることがあったが、これがまた美味しくて、イナリ山グルメたちにとっては、またとない珍味でもあったのだ。
大漁になると、正直屋の店先にある桜の木の下で、チミー隊長の父親である権さんといっしょに、千鳥足でイナリ山名物の八木節音頭を狂ったように踊りまくっていた。
もちろん、縁台には必須アイテムである岡本本家の清酒キンカメと素焼のウナギが燦然と輝いていた。
しかし、12月の今は、まるで冬眠をしてしまったかのように川は静まり返り、水流も細くなっていた。
やがて来る春のために、しばしの休息に入ってしまったかの様だった。
!!!!!!!!!
二人は、利根川と宮川の合流点に到着した。
川幅は思ったより広大で、水は中央を弱々しく流れていたが、中に入るには勇気が必要だった。
だが、汚物をまとい強烈な臭いを発している超人クメを、なんとか洗浄しなければならなかった。
周囲を見回すと・・・河川敷の北側にちょっとした水たまりがあった。
二人は顔を見合わせて・・・お互いに、うなずき、覚悟を決め・・・恐る恐るその中に入って行ったのだ。
だが、少し浸かっただけで、瞬時に震えがきた。
クーーーークーーーークーーーー、たまらんぞー、球が凍っちまーうぞーーー!
クーーーークーーーークーーーー、クク81・・・パパ88だんべー・・・・・・!
利根川の水はこんなにも冷たかったのか・・・パンツを脱ぐと、男の大事な部分が、塩を振りかけられたナメクジのように縮んでいたのだ。
ガクガクとアゴが震えて、なかなか止まらなかったが、意を決っして脱衣し、ゴシゴシと洗濯を始めた。
透明な水が、汚物で濁っていくのがわかった。
ズボン、パンツ、シャツ、上着等・・・かじかんだ手で、なんとか洗うことができたが・・・クメはゴマフアザラシのように、ずっと静止状態で水につかっているだけだった。
「おい、じっとしてねーで、おめーも早く洗え―、凍っちまうぞー・・・!」
私の問いかけに、クメはニャリと笑うだけで、なかなか動こうとしなかった。
「おめー、何やってるんだよー、早く着物を脱げー、クセーんべなー、鼻が、ひん曲がっちっまうぞー・・・!」
着物を脱がせようとして引っ張ると、何故だか、かたくなに抵抗をした。
「おめー、いいかげんにしろよなー、怒るぜー・・・!」
しばらく二人の引っ張り合いが続いたが、勝負はつかなかった。
「もう、トサカに来たでー・・・いいかげんにしろー・・・とっとと脱げ・・・とっとと脱げと言っているだろー、こんにゃろめー・・・!」
私の激怒に驚いたのか、背中をこちらに向けたまま、渋々と着物を脱ぎ始めた。
どれもこれも大人用で、とても、同年齢の人間が着る物には見えず、ただただ、あきれるばかりであった。
たしか、青いジャージにはクメと書いてあったはすだが、コエダメによる影響だろうか・・・みごとに黄色く染色されていて、何度洗っても落ちることはなかった。
バンビー。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス