第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(57)
「おい、メガネ、やる気か、いい度胸をしているじゃねーか・・・!」
私は、いつの間にか拳を強く握りしめ、ファイティングポーズをとっていたのだ。
それを見た平田平太が、ズルがしこい笑みを浮かべながら、のっそりと近づいてきた。
「いくら相手が強くても、少年ホース全員でかかれば楽勝だろう。」と、私は余裕をカマしながら、ゆっくりと後ろを振り返ったのだ。
が・・・なんと・なんとーーーー・とっ・とっ・とっ・とーーーん・・・!
そこにいるはずの、ハツ・トラオ・タケたちの姿が見えないのだ。
何かの間違えだろう・・・?
彼らが、彼らがーー・・・完全に消えているではないかーーーー!
これは、イリュージョンなのか・・・!
それとも、イナリ山の奇跡なのかーーーー・・・!!
おみごと、おみごと過ぎるぞーーー、ゾウさん・ゾウさん・お鼻が長いのねーーー・そうよ・母さんも長いのよーーーーー・・・!!
団員たちは、木陰に隠れて、奇襲戦法に打って出ようとしているのだろうか?
・・・いや、そんなに甘くはなかった・・・
完全に、トンズラをかましたのだ。
敵前逃亡するとは、なんと情けない奴等だ!
・・・後ろには、クメしか残っていなかったのだーーーー!
私がたんと落胆していると、平田平太が、いきなり左手で襟首を掴んできた。
「おい、メガネ、何をブツブツ言っていんだーーー・おいーー・・!」
すごい握力だった。
おそらく、右手の握力は60㎏はあるだろう。
私は、クレーンのように、グイーーーンと簡単に吊るし上げられてしまった。
「う・う・う・うるせー、ブタ野郎、ウシ野郎、ウマ野郎・・・!」
ありったけの罵声を浴びせて、足をバタバタさせた。
すると、ウーウーと唸りながら、平田平太が急にしゃがみこんでしまったのだ。
・・・なんと、幸運にも・・・暴れた足が、相手の金的にヒットしたのだ。
「おい、メガネ・・・やってくれるじゃねーか・・・!」
平田平太が、苦しそうに粗末な一物をかかえながら、ものすごい形相で立ち上がって来たのだ。
だが、その瞬間・・・ドバッと鼻血を噴水のように空中に吹上げ、まるでスローモーション映画のように、後方へ反り返って行ったのだ。
・・・これは・・・スゴイぞー・スゴ過ぎるぞーーー・・!
私の頭越しに、クメのメガトンパンチが炸裂したのだーーーー・・・!
平田平太は、20カウントしても起き上がれなかった。
おみごと、おみごとーーー・・・・・クメの、KO勝利だーーー!
スゴイぞ、スゴイぞ、スゴイぞ、クメちゃーん・・・キミこそ、正直屋認定の真のイナリ山ヘビー級チャンピョンだんべーーーー・・・!
!!!!!!!
「この野郎、ふざけたマネをしやがってー、ナメてんじゃねーぞー・・・!」
その光景を眺めていた杉緒杉男が、冷酷な笑を浮かべながら近づいてきた。
すでに、土手への逃げ道はふさがれていたのだ。
その時だった。
「ワッ・キャ・キャ・キャ-・・・ワッ・キャ・キャ・キャーーー!」
強いアルコール臭とともに、どこからともなくノー天気な笑い声が利根川の河川敷に響きわたったのだ。
「ワッ・キャ・キャ・キャ-・・・ワッ・キャ・キャ・キャーーー!」
なんと、堤防の上に、上半身裸でヒョウ柄のガラパンツを着用し、一升瓶をぶら下げた老人が突如として出現したのだ。
最初は裸族だと思ったが・・・まぎれもない・・・・!
あれは、あれは、あれこそが、イナリ山五大賢人の一人、ツル大先生だーーーー・・・!
しかし・・・何故だ、何故だ、何故なんだーーーー!
何故、ツル大先生がそこにいるのだーーーー・・・!
赤城印の焼酎ビンを大事そうに両手でかかえて、昼間からたんとゴキゲンのようだ。
「諸君、キミたちには勉強が一番だ、ワシを見ろ、ワシはミスター・勉強家だ・・・勉強会のスーパースターじゃ・・・酔ってなんかいねーぞ、ごほうびに勉強水をいただいているのだ・・・これを飲んで、勉強水の研究をしているんじゃ、イナリ山の教育に革命を起こすのじゃー・・・レボリューションだーーーーー・・・まいったかー・・・まいった・まいつた、まいったもんだー・・・ホッ・キョ・キョ・キョーーーン・・・・!」
まさに、勉強会のスーパースターであるツル大先生は、意味不明な言葉を発しながら、一心不乱に八木節音頭を踊り始めたのだ。
「うるせー、コノヤロー、引っ込んでいろー・・・!」
杉緒杉男が恫喝すると、・・・千鳥足の大先生は、時計の振り子のように体を揺らし、やがて、堤防の外側に落下して消えてしまった。
なんともお騒がせなお方・・・まるで、蜃気楼のような光景だった。
バンビー。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス