第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(59)
思ったとおり、利根川の水流は大変な暴れん坊だった。
ところどころで渦を巻き、あやうく底に引きずり込まれそうになったのだ。
巨大な岩石に流れがブチ当たり、大きな水しぶきを上げていた。
シャキューン・ドブアーーーン・グファーーーーーン・・・!
恐怖が全身を襲って来たが、幸運にもダイブした瞬間、着用していたヤッケに空気が入り込み浮袋状態になっていたため、なんとか浮力を保つことができたのだ。
それに、水温は思ったほど低くはなかった。
だが・・・自然の力に対しては、あまりにも無力だった。
もがけばもがくほど体力を吸いとられ、まるでクモの巣にハマった獲物のように、悪あがきをすることしかできなかった。
・・・私は、ただ流れに身をまかせ、大の字になって下って行くしかなかったのだ・・・
まるでジェツトコースターのように上下動をくりかえしながら、そのたびに大量の水をガブダブと飲み込んでしまった。
利根川には抗えない・・・人生は運まかせ・・・しばらくの間、生いていることを認識することができなかったのだ。
・・・知らないうちに、何度か失神を繰り返していたのかもしれない。
!!!!!!
1㎞ほど流された頃だろうか。
急に、水流が弱くなり、トロ場に入った。
30秒程で、流れはカケ上がりとなり、やがて、底に足がつく状態になった。
・・・・・私は、なんとか体を直立させて、岸に向かってゆっくりと歩き出すことができたのだ。
衣服は大量の水を含み、まるで鉛の鎧を羽織ったような感覚だった。
一歩一歩、底の状態をさぐりながら慎重に進んだのだが、何度か転倒してしまった。
そのたびに、口と鼻から大量の水を飲んでしまい、腹はパンパンの状態になってしまったのだーーーー・・・!
ニャ・ニャ・ニャ・ニャンコロ・リン・リン・リーーーン・・・!
!!!!!!!!
岸辺に向かい、流れの中をさまよっていると、前方に大きな流木を発見した。
私は思わずそれにつかまり、なんとか一息入れることができたのだ。
急激な疲労と恐怖で、ゼイゼイと、全身で呼吸をするのがやっとだった。
これで助かったと思った瞬間、寒さで全身が震えだしたのだ。
上下の歯がガチガチと音を立て、全身の筋肉が痙攣をおこしそうになったが、必死にこらえた。
前屈みになった上半身を、ゆっくりと持ち上げると・・・・・・なんと・なんと・とっとっとーーーん・・・!
からみ合った流木の中に、巨大なマネキンのような物体を発見したのだ。
それは、映画の「犬神家の人々」に出てくるような、両足が逆V字型に水面から飛び出し、頭から水没していたのだ。
・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・!
と、思わず笑ってしまった。
・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・!
・・・なんとも、マヌケな漂流物があるものだと、たんと感心していたのだ・・・・・・が・・・その瞬間・・・!!!
・・・グワーーーン・グワーーーン・グワーーーン・・・・!
・・・グワーーーン・グワーーーン・グワーーーン・・・・!
・・・クメがーーー、クメがーーー、クメが~~~・・・!
クメが、いないではないかーーーーー・・・!
手をつないで、いっしょにダイブしたクメが、いないのだーーーー・・・!
もしかして、もしかして、もしかしてーーー・・・!!
アドレナリンが全身をかけめぐり、心臓がバクバクと脈を打つのがわかった。
・・・私は、恐る恐るマネキンを引っ張り上げたのだ。
すると、水中から青のジャージを着用した物体が、ボワーン・ボワーーーンと浮き上がって来た。
血の気の失せた、まるで死体のような姿・・・・!
背中には大きな字で、クメと書いてあるではないか・・・!
・・・クメだーーーーー、クメだーーーー、クメちゃーーーーん・・・!
ト・ト・ト・ト・ト・トーーーーン・・・クメちゃーーーーーん・・・!
ト・ト・ト・ト・ト・トーーーーン・・・クメちゃーーーーーん・・・!
私は無我夢中でクメのジャージを掴み、急いで岸辺へ引っぱり上げようと、がむしゃらに行動を開始したのだーーーーー・・・!
バンビー。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス