第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(62)
必死の思いでクメに謝罪をしていると、どこからともなく強いアルコール臭とともに、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきたのだ。
それは、笑い声というよりも、間の抜けた悲鳴のようなモノだった。
「ワッ・キャ・キャ・キャ・キャ-・・・ワッ・キャ・キャ・キャ・キャー・・・!」
なんと、なんと、とっとっとーーーん・・・本日2回目のオン・ステージ・・・イナリ山七大賢人の一人、ツル大先生が登場したではないかーーーい・・・!
しかし、何故・・・?
何故、こんなところにポッツーーンとお一人様・・・
そうか、そうか、そうかせんべい・・・彼は孤独を愛し、孤独に酔いしれる吟遊詩人だったのだろうか・・・?
・・・それとも・・・ただの、意地汚いヨッパライだったのかー・・・!
大先生は、熱愛する赤城印の一升瓶をブラ下げ、愛用のガラパンツを着用し、赤銅色に輝く自慢の肉体を誇示し、いきなり一人歌唱大会を始めたのだ。
「♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げたら、飛んでったー
♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げたら、飛んでったー・
♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げた、♪ネコぶん投げたら、飛んでったー・」
だが、彼は延々と同じフレーズを繰り返すばかりで、中身はスッカラカンだった。
何を語りたいのか、何を伝えたいのか、何を発信したいと言うのだろうか・・・・?
!!!!!!!
・・・そして10分後・・・ツル大先生は、いきなり嗚咽をもらし・・・重い口を開いたのだ。
「諸君、キミたちには勉強が一番だぞー・・・ワシを見ろ、ワシを見るんだー・・・ワシはミスター・勉強家だー・・・勉強会のスーパースターじゃ・・・酔ってなんかいねーぞ・・・ごほうびに勉強水をいただいているのだ・・・これを飲んで、勉強水の研究をしているんじゃ・・・イナリ山に、教育革命を起こすのじゃー・・・レボリューションだーーー・・・まいったかーー・・・まいった・まいった・まいったもんだー・・・ホ・キョ・キョ・キョ・キョ・キョーーーン・・・?」
先生は、泣きながらグイーーン・グイーーーンと一升瓶をあおっていた。
・・・しかし・・・あまりにも自己陶酔の世界に入り込んでしまったツル大先生に、たんと腹が立ってきたのだ。
クドイ・・・グド過ぎるー・・・苦度石灰だんべーーー・・・!
私は、思わず叫んでしまったのだ。
「うるせーー、コンニヤローーー・・・!」
罵声を浴びせられた大先生は、堤防の外側に簡単にころげ落ちてしまい、あっという間に姿を消してしまった。
まさに、ミスター・蜃気楼だった。
!!!!!!!!!
ツル大先生の、ミニ・コントの影響だろうか、ピリピリと張りつめていた空気が、少し柔んできた。
クメはファイティングポーズを止め、生乾きの衣服をゆっくりと着用し始めたのだ。
私もそれにつられて、同じように身支度をした。
あい変らず、体の震えはおさまらなかったが、平田平太と杉緒杉男の恐怖から解放されたことで、少し安堵したのだ。
身支度が終わると同時に、二人はお互いに声をかけることもなく・・・家路に向かって歩き始めた。
・・・隊長、ハツ、タケ、トラオは、どこへ消えてしまったのだろうか?
・・・奇襲攻撃を仕掛けるために、まだ秘密基地に隠れているのだろうか?
・・・いや、やっぱり、トンズラをカマしたのだろう・・・!
様々な思いをめぐらしながら歩いていると、やがて、わかくさ保育園の見える宮古橋にたどり着いたのだ。
緑色の屋根を遠くから確認すると、急に元気になり、歩くスピードがアップした。
ところが、突然、クメがストライド走法で、私を追い越したのだ。
私も負けまいと、ピッチ走法でクメを追い越した。
すると、クメがグイーーンと前に飛び出したのだ。
私も、グイーーン・グーーーンと、一気に飛び出した。
グイーーーン・グイーーーーン・グイーーーーーン・・・・!
白熱のデッドヒートは、しばらくの間、続いたのだ・・・
!!!!!!!!
そうこうしているうちに、わかくさ保育園の初恋桜の大木の所までやってきた。
・・・大木は、相変わらず悠然と立っていた。
帰って来たぞーーー・帰って来たぞーーー・・・!
私は、思わず初恋桜にセミのようにすがりつき、必死になって叫んだのだ。
とうとう・・・とうとう帰って来たぞー・・・!
帰ってきたんべーーー・帰ってきたんべーーー・帰ってきたんべーーーー・・・!
悪夢の一日・・・思い出すたびに涙があふれ、止めることが出来なかったのだ。
バンビー。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス