第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(64)
チミー隊長について語るには、「ナッツ事変」についてお話をしなければならないでしょう。
ご存知のように、ナッツとは金的のことで、これはチミー隊長が英語教室で学習して団員たちにひろめたスラングでした。
「ナッツ事変」の発端は、ある夜、彼がテレビ番組で、滝修行をした空手の達人を見たことが始まりでした。
その達人は、ナッツをメチャクチャに蹴られても、涼しい顔をして平然と立っていたのだそうです。
これに、たんと感動した我らが隊長は、すぐに達人への道をめざして自宅のシャワー室にこもり、特訓を開始したのです。
最初は半信半疑のようでしたが、時間の経過とともに何故か自信が全身にグイーングイーーーンと、みなぎって来たのです。
それはどこから来たものなのか、まったく意味不明でしたが・・・
気分はまるでヘモグロビンサンCを飲んだ時のように、「男らしく・たくましく・荒々しく」、三拍子そろったウルトラ・おっさん少年に変身していたのです。
翌日、自信に満ち溢れた隊長は、秘密基地で開口一番、みごとにブチカマしました。
「おいハツ、オレのナッツを蹴ってくれ・・・!」
あまりにも唐突なお言葉に、ハツはそんな無謀なことはできないと即座に断ったのですが、ウルトラ・おっさん少年に変身した彼は、余裕をカマしてこう言ったのです。
「なーに、遠慮することはねーんだ、オレは滝修行をして達人になっちまったんだよ、今までのオレとは違うんだ・・・なんせモノがちがうぜ、モノがちがうんだよーー・・・ホッ・キョ・キョ・キョーーーーン・とっとっとーーーーん・・!」
隊長はしきりにモノの違いを強調していましたが、彼のナッツは体に反比例して、かなり粗末なモノであることは、全員が知っていました。
それは、利根川の堤防で全員が一斉に放尿したときに、一番飛距離が短かったのが隊長で・・・しかも、彼は毎回、短距離専門家だったのです。
何度チャレンジしても逆転ホームランが出ることはなかったし・・・つねに、ピッチャー・ゴロ程度でした。
よもや、小学校6年生の彼が、前立腺炎になったとは、とうてい考えられません。
だから、蹴ってくれという要求は、かなり無謀なチャレンジだったのです。
「そんならどーだんべー、全員で蹴ってくれ・・・オレは達人だからなー・・・痛みを感じねーんだよー・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョーーーン・・・なんせ、モノが違うんだよ、モノがねー・・・ト・ト・ト・ト・トーーーン・・・!」
彼は、しきりにモノの違いにこだわっていました・・・が、モノに痛みを感じないというのは、生来の鈍感体質なのです。
「さー来いやー、来てみろやー・・・遠慮はいらねーぜー・・・おいハツ、来いや、来てみろやー・・・ハッ・キョ・キョ・キョ・キョーーーン・・・トッ・トッ・トッ・トーーーーーン・・・!」
ハツは隊長の勢いに圧倒されて、そっと前蹴りを出したのです。
「おい、おい、かんべんしろやー・・・ナメてんのか・・・それって、ツル大先生の行きつけのオサワリ・バーじゃねーかー・・・来いやー・来いやーー・・・全員で来いやーーー・・・遠慮はいらねーぜーーー・・・ハッ・キョ・キョ・キョ・キョーーーン・・・トッ・トッ・トッ・トーーーーーン・・・!」
隊長の圧倒的な迫力に、ハツが思わず叫んだのです。
「スゲーでがんす・・・スゴすぎまーす・・・シンビレちゃいますーーー・・・ホンモノでがんす・・・隊長こそ、真の達人でがんすよー・・・!」
他の団員たちも、同じように叫んで、たんと持ち上げました。
しかし、「ナッツ蹴り!」の要求は、止むことはありませんでした。
やがて、彼の心意気に感動して、トラオが一歩前に出たのです。
「オッス!・・・隊長、失礼します。それではナッツ蹴り、行きまーす・・・!」
瞬間、「パシッ!」という音がして、軽くヒットしました。
「おい、ぜんぜん効かねーぞー・・・おめーら、それでも男なんきゃー・・・しっかりしろや、少年ホースの名が泣くぜーー・・・!」
トラオは虚弱体質のため、ナッツ蹴りは不十分なようでした。
ですが・・・彼は口ではそう言いつつも、本当はたんと苦しそうでした。
今にも、泣き出しそうな顔をしていたのです。
!!!!!!!!
そして、この時はまだ、若干の余裕がありました・・・が・・・やがて・・・この無謀なチャレンジが、人生最大の悲劇を生むことに、我らが隊長は、気付いていなかったのです。
とっ・とっ・とーーーん・・・ワオーーーン・・・!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス