第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(66)
「利根川の敗北」から一週間後、ふたたび隊長から緊急集合の回覧板が回って来た。
団員たちは新鮮なフルーツを期待して、今度こそガッツリと食ってやるぞと意気込み、大量のヨダレを流しながら、D-51ばりのスピードで秘密基地に集合したのだ。
だが、私は、利根川ショックから立ち直れぬまま、憂鬱な日々を過ごしていた。
足取りもダルく、ナンダカンダで集合時間に遅刻してしまった。
・・・秘密基地に到着すると、いつものようにチミー隊長のノーテンキな声が、中から聞こえてきた。
・・・彼には、悩むという思考がないのだろうか・・・!
・・・本当に、おめでたいお方だ・・・きっと、金目ダイばっかり食べているのだろう!
そっとドアを開けると、隊員たちは隊長の演説も上の空で、売れ残りのフルーツに、ドッカンドッカンとガッツいていた。
「これは、オレのだかんな・・・食うんじゃねーぜ・・・!」
私の姿を見るなり、卓上にあったリンゴをトラオが両手でガードをしたのだ。
「遅刻したん奴がワリーんだかんな・・・これはオレのだぜ・・・!」
念を押すように、トラオがまた言った。
他の団員も、鉄壁のガードを敷いていた。
ここは、弱肉強食の空間・・・早い者勝ちの世界だ・・・!
ダンボール箱を覗き込むと、中はスッカラカンで、完全に食いつくされていたのだ。
!!!!!!!!
「諸君、いったいボクたちに足りないモノは、何なのだろうか・・・!」
隊長は、ジョロキアのように顔を赤く染めて、声高く演説を始めた。
が・・・いつものように、団員たちは食事に夢中で、誰も感心を示さなかったのだ。
「諸君、今一度問う・・・はたしてボクたちに足りないモノは何なのだろうか・・・?愛だろうか、それとも未来だろうか・・・?・・・ラブ オア ヒューチァー アンド ピース・・・ノー・ノー・ノー・・・ワイルド オア アドベンチャー ・・・・!」
彼は、しきりに英単語を並べて、ドッサリと自己陶酔の世界に入って行った。
「君たちには解らないだろうね・・・ボクは、悩んでいるのさ・・・ボクの思考は、すべて英語だからな・・・どう伝えていいのかなー・・・お手あげだー・・・お手あげだー・・・お手あげだー・・・!」
隊長が、頭をかきむしりながらタメ息を繰り返していると、ハツがそっと手をあげたのだ。
「おい・おい・おい・・・ハツ君・・・どうしたんだい・・・フルーツのおかわりかい・・・ボクは、悩んでいるんだよ・・・悩み過ぎて、気絶しそうなんだぜー・・・!」
彼は頭を横に振り、嫌悪感を示していた。
・・・すると、今度はタケが両手を上げたのだ。
「ハツ君・・・ウケねらいかい・・・ボクは、怒るよ・・・ツン・ツン・ツン・・・!ツン・ツン・ツンのツン・ツン・ツンだぜー・・・!」
彼は、アイロニーを浮かべながら、不満を口にした。
「隊長・・・名案があります・・・!」
口の中に食物をいっぱい詰め込んだまま、ハツが張り切って発言をしたのだ。
「どうせ、ろくでもねー案だろうねー・・・?」
「じつは、じつは、週刊じつ話・・・ウチのあんちゃんが、空手の達人なんです。赤城山で、修行をしているんでがんす・・・すんげーでがんすよー・・・!」
隊長は、いつもの冗談だと思い、聞き流していた。
それに、ハツに兄がいることなど誰からも聞いた事がなかった。
「昨日、大猿の滝で修行をして帰って来たところなんでがんす。」
すると、フルーツにガッついていたトラオが、すばやく食いついたのだ。
「ほんとうきゃー、初めて聞いたぜ・・・黒帯なんきゃー・・・!」
ハツの目が一気に輝き、語り出したのだ。
「黒帯なんか目じゃねーぜ、金色帯だぜ・・・、すんげーべー、見たことねーんべー・・・!」
タケの言葉に、全員が注目した。
「へー・へー・へーーー・・・金色帯って、10段以上だんべなー・・・!」
トラオが興奮して、大量のツバを飛ばしながら叫んだ。
「いんや、20段かもしんねーぞー・・・!」
タケも興奮して、持ち上げた。
「いんや、いんや・・・100段かもしんねーぞ・・・!」
私も負けずに、一気に持ち上げまくったのだ。
「あんちゃんはなー、300㎏もあるオス鹿と戦って、相手をボコボコにしたんだぜ。
その証拠に、鹿の角が家にあるんだぜ・・・金色帯だかんなー・・・たんと、すげーでがんすよーー・・・!」
タケは身振り手振りを加えて、益々、饒舌になって行った。
「語っちゃうねー、語っちゃうねー、語り部さーーん、・・・そんなら、空手を教えてもらうんべーじゃねーかー・・・弟子になるんべーじゃねーかー・・・なー、皆の衆、早いとこ、拝んじゃうぜー・・・!なー、皆の衆、早いとこ、拝んじゃうぜー・・・!」
食い物を漁っていたトラオが、興奮して八木節を踊りだした。
そして、彼の言葉に従い、全員が、ハツに向かって、おごそかにヒレ伏したのだ。
P.S
ハツは3人兄弟の長男であったが、3日前に母親が再婚して、突然、16歳の兄と一歳上の姉ができたのだ。
その兄は、通信教育で空手を習い、金色帯を取得し、人生のすべてを掛け、空手道を追求すべく、赤城山にある大猿の滝で修行をしていたという話だった。
バンビー
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス