第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(71)
必死の思いで探し当てた家は、桃の木川の堤防の近くにあった。
そこは平屋造りで、屋根の瓦がところどころ吹き飛んでいて、とてもみすぼらしかったが、縁側の廊下は綺麗に雑巾掛けがされていて、引き戸には真っ白な障子紙がきちんと貼られていた。
上州名物のからっ風にあおられて、時折、雨トイがカタカタと音を立てていたが、庭には、物干し竿が吊るされていて生活感があった。
小さなつむじ風が枯れ草を空中に巻き上げて、その内のいくつかが縁側にフワリフワリと漂いながら落下していたのである。
「こんな所に住んでいたのか・・・!」
彼は目頭を押さえながら、感傷に浸っていた。
「なんで、もっと早く探してあげられなかったのだろうか・・・?」
自責の念で、胸が張り裂けそうだった。
しばらくの間、入るべきかどうか躊躇していたが・・・やがて意を決して・・・ゆっくりと玄関へ向かって行ったのである。
!!!!!!!!
実は、ここに来る前に、たまたま立ち寄った店で、情報を仕入れていたのだ。
そこは、片田舎にあるものの、ずいぶんと繁盛していて、道路横に正直屋という巨大な看板が建っていた。
赤札の商品が店先に陳列されていて、沢山の客がそれを手に取り、掃除機のように中に吸い込まれていたのである。
・・・喧騒の中、商品をながめていると、顔の長い店主が勝手に話しかけてきた。
「ヘイ、らっしゃい、らっしゃーい・・・新鮮だよ、安いよ、庶民に優しい正直屋だよ・・・ヘイ、らっしゃい、らっしゃーーい・・・!」
気がつかないフリをしていると、50㎝の至近距離まで近づいてきたのだ。
「ヘイ、らっしゃい、らっしゃーい・・・今日は、フルーツが安いよ、パイナップルなんてどうだい・・・勉強しちゃいよ・・・なんせ、勉強家の権ちゃんだかんねー・・・これでもT大へ行っていたんさねー・・・とは言っても中退だけんどねー・・・ホッキョ・キョ・キョ・キョ・キョーーーン!」
お調子者なのだろう・・・いきなりトップギアに切り替わり、ツバを飛ばしながら力強い口調で語り始めたのだ。
「そうなんさー・・・イナリ山が、権ちゃんを必要としたんさー・・・だから、帰って来たんです・・・イナリ山のために、人生を捧げている男・・・T大よりもイナリ山を愛した男・・・それが、正直屋Å権ちゃんなのでスー・・・!」
T大とÅいう言葉に、一瞬、彼が反応した。
何故なら、彼もT大工学部卒だったからだ。
だが、顔の長い店主のトークは、人のことなどおかまいなしに続いていった。
「こう見えても、権ちゃんは神童と言われていたんさーねー・・・学校では、権ちゃんが先生だったんさ・・・権ちゃんにかかれば、何だって勘太郎だんべー・・・ホッキョ・キョ・キョ・キョ・キョーーーン!」
店主のマシンガトークは、快調だった。
「でもよー、権ちゃんにも勝てない相手がいるんさー・・・うちのワイフなんだけどねー・・・美人なんだけどさーー・・・おっかねえんさー・・・心の底から、震えちゃうぜー・・・それも魅力なんだけんどさー・・・愛されちゃつてるんさーねー・・・なんせ、権ちゃんはモテ・モテ・モテのモテ・モテ・モテだかんなー・・・!」
店主の顔は、話せば話すほど何故か縦に長くなって行った・・・・・が、いいかげんに止まらないトークに、彼は徐々に腹が立って来たのである。
ふと、床を見るとダンボールの横に荒縄が落ちていたのだ。
「きっと、この男は妻の乱暴を楽しんでいるのだろう・・・!」
彼は、ためしに、それを拾い上げて、モテモテの店主を亀甲縛りにしてみた。
すると、最初はキツネにつままれたかのようにキョトンとしていたが、体を動かすたびに縄が食い込み・・・やがて店主は、なんらからのエクスタシーを覚えたようだった。
「・・・いいねー、いいねー・・・・!」
Mにめざめたのか・・・それとも生来のM男だったのか・・・今まで味わったことのない快感に、歓喜の声を上げ始めたのだ。
「いいねー、いいねー、いいねー・・・!」
やがてそれは、絶叫へと変わって行ったのだ。
「いいねー、いいねー、いいねー、いいねー、いいねーーーーーー・・・!」
だが、その大声に反応して、周囲に客が集まって来たのである。
沢山の目線に気がついたのだろう・・・いきなりドスンと座り込んでしまった。
我に返った店主は、顔をジョロキアのように赤く染めて、頭を横に振ったのだ。
「てなわけねーだろうー・・・お客さん、冗談が過ぎますよー・・・モー・モー・モーー・・・モー・モー・モーーー・・・・・!やってくれますねー・やってくれますねー・・・お客さん、冗談が過ぎますよー・・・モー・モー・モー-・・・モー・モー・モーーー・・・!」
間の抜けた口調に、店内から一斉に笑声が起こった。
ノリのいい店主は、一瞬にして、爆笑をかっさらったのだ。
・・・・・嵐のような笑声は、しばらくの間、止むことはなかったのである。
「モー・モー・モー・・・モー・モー・モー・・・モー・モー・モー・・・!」
!!!!!!!!!!
P・S
この出来事がきっかけで、店主の権さんは毎日客の誰かに亀甲縛りにされるようになっていた。
そしてこれが、正直屋の恒例イベント「突然・店主を・・・・・!」に発展して行ったのである。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス