第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(72)
「ごめんください・・・ごめんください・・・・・!」
遠慮がちにかけた言葉は、なかなか届かなかった。
「ごめんください・・・ごめんください・・・ごめんください・・・・・!」
彼は、少し声を大きくして呼びかけてみたが、相変わらず反応はなかったのだ。
留守なのだろうか・・・ためらいがあったが、思い切って引き戸を開けてみた。
「ごめんください・・・ごめんください・・・ごめんください・・・・・!」
やはり、奥からの反応は、何もなかったのである。
中に入り玄関口を見回していると、どこからともなく、お香の匂いが漂ってきた。
これは・・・これは・・・たしか、線香だ・・・・・もしかして・・・・・・!
彼は胸騒ぎを覚えながら、中に入って行ったのだ。
すると、床の間の布団の上に、人が眠っていた。
しかも、白い布が顔にかかっているではないか。
そして・・・・・その横には、強烈なオヤジカットの少女がポツンと一人で座り込んでいたのだ。
・・・・・彼の訪問に、やっと気が付いたのだろう・・・・・?
少女が、そっと顔を持ち上げた。
涙に濡れた大きな目・・・・・顔の輪郭・・・・・顔を合わせた瞬間、ドスンという衝撃を受け、そのまま時が止まってしまったかのような錯覚に陥った。
なんと・・・なんと・・・とっとっとーーーん・・・・・!
今は亡き息子に、そっくりではないかーーーー・・・!
とっとっとーーーーん・・・・・とっとっとーーーーん・・・・・!
走馬灯のように、記憶の扉がグルグルと回転し始めたのだ。
もしかして・・・・もしかして・・・・!
・・・そうだ・・・ここにいるのは・・・孫娘では・・・・・!
・・・今・・・今、何が起きているのだ・・・・・!
彼は、この状況をしばらくの間、理解することが出来なかった。
「何か・・・御用ですか・・・・・?」
少女が、弱々しい声で問いかけてきた。
「・・・・・いや・・・以前、大変お世話になった者です・・・・・」
とっさに、こんな言葉しか出なかった。
「・・・・・訃報をお聞きしたもので・・・・・・!」
あまりにも突然の出来事に、思考が停止してしまったのだ。
「・・・あのー・・・・・お顔を拝見してもよろしいでしょうか。」
無意識に、そんな言葉を発してしまった自分を、彼は恥じた。
・・・・・やはり・・・・・ここに眠っている人は・・・・・
・・・・・かつて、息子の愛した人なのだろうか・・・・・?
さきほど立ち寄った正直屋の店主の話では、母親は重度の心臓病を患っているとのことだったのだが・・・・・?
・・・・・少女は前屈みになり、そっと布を持ち上げた。
あーーー・・・あーーーー・・・あーーーー・・・・・!
・・・・・そうだったのか・・・・・そうだったのか・・・・・!
不安は的中した・・・・・静かに横たわる人物・・・この顔立ち・・・柔和な顔・・・
それは、かつて彼の会社で受付係をつとめていた・・・・・響ユリナだった。
あーーー・・・あーーーー・・・あーーーー・・・・・!
突然、彼の目から、ドバッと涙が溢れだした。
・・・・・なんで、なんで、言ってくれなかったのだ。
・・・・・なんで、なんで、息子と別れてしまったのだ。
・・・・・逝くには早いぞ・・・早すぎるぞー・・!
・・・・・こんなに、可愛い子供がいるではないか・・・・・!
彼は、うつむいている孫娘に、なんと言葉をかけてよいものやら、迷っていた。
「・・・・・ご病気だったのですね・・・・・!」
涙ぐんだ彼を見つめながら、少女は答えた。
「心臓を悪くして・・・・・病院へ行けなかった。」
そう言って、突然、号泣したのだ。
彼は、孫娘の頭に手を乗せて励まそうとしたが、なんとか思いとどまった。
涙がたんと溢れ、いくら目頭を押さえても、前が見えなかったのだ。
何故、もっと早く捜してやれなかったのだろうか・・・・・!
後悔だけが、残ってしまった。
・・・ただ・・・ただ・・・悲しい時間だけが・・・虚しく過ぎていくばかりであったのである。
!!!!!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス