第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(73)
「まいどー・・・まいどーー・・・まいどーーー・・・!」
「まいどー・・・まいどーー・・・まいどーーーーーーー・・・!」
何やら、玄関先が急に騒がしくなった。
もしかして、正直屋の店主だろうか・・・?
彼は、そっと席を立ち、声のする方へ向かったのだ。
「まいどー・・・まいどーー・・・まいどーーー・・・正直屋の権ちゃんでーーーす。大将、持ってまいりましたよー・・・たんと勉強しときましたぜー・・・なーに、遠慮なんかいらねーさー・・・なんせー、オイラたちはT大の同窓生だ・・・大将に恥をかかせるわけにはいかねー・・・めったに手にはいらねードラゴンフルーツも入れときましたぜー・・・ウキョ・キョ・キョ・キョーーーン・・・!」
やはり、お気楽な正直屋の店主だった・・・大きなバスケットをかかえ、顔を合わせるなり、マシンガントークを開始したのだ。
・・・・・たしかに、フルーツは、ここに来る前に、彼が配達を依頼したものだった。
「クン・クン・クン・・・クン・クン・クン・・・ク・ンクン・クン・・・!クィーーーン・クィーーーーン・クィーーーーン・・・・・!」
店主が何かに気づいたようで・・・・・急に顔をしかめ・・・奥の方をのぞきこむように、ニューンと首を伸ばした。
「大将・・・これは線香の匂いじゃねーだんべか・・・そうだんべー・・・ズボシだんべ・・・ズボーーーン・ズボーーーーン・・・!」
秘密を探り当てた探偵のように、彼は雄弁になっていった。
「大将、水くせーだんべ・・・ここは、T大の同窓生として、話してくんない。なーに、人には寿命というものがあるんさーね・・・いつかは、くたばっちまうんさー・・・遠慮なく、上がらしてもれうんべー、上がらしてもらうんべー・・・!」
口角にアワを飛ばしながら、店主は強引に中に入ろうとしたが・・・必死の思いで彼は止めに入ったのだ。
「ここから上は、カンベンしてください。今は取り込み中なものでね・・・!」
しかし、店主はモノノケに取りつかれたかのように、必死にハイ上がろうとした。
「なーに、なーに、遠慮はいらねーよー・・・権ちゃんは、イナリ山の民生委員なんさー・・・こういうことは、イナリ山村民に詳しく伝えなくっちゃならねーんだ。悲しいのは解る・・・でもよー・・・これは、イナリ山のしきたりなんさー・・・助け合いの精神なんさー・・・遠慮することはねーんさー・・・!」
店主は意地でも前に進もうとまくしたてたが、彼もまた、意地でも通すまいと壁を作った。
「話は、解りました・・・でも、今は取り込み中なもので・・・しばらくの間、カンベンしてください・・・!」
必死の、訴えにも、店主はまったく聞く耳を持たなかった。
「わかるよー、わかるよー・・・悲しいのは、わかるよー・・・でもよー、権ちゃんは放っておけないタイプ・・・お仕事なんです・・・イナリ山を愛している男・・・イナリ山に愛されている男・・・そして、ミスター・イナリ山なんさー・・・悪いことは言わねーよー・・・大舟に乗ったつもりで、正直屋の権ちゃんにまかせなさいよ・・・なーに、全然、心配いらねーぜー・・・・・!」
自己陶酔の世界に飛び込んでしまった店主は、まったくとりつくしまがなかった。
仕方なく、外で待機していた秘書の山市山治を呼んだのだ。
彼は柔道3段の猛者で、体重100㎏もある巨漢である。
「山市君、頼むよ・・・!」
社長の一言で、山市山治は権さんの両脇をつかみ、まるでクレーンゲームのように、簡単に場外へつまみ出したのである。
「おい、でっけーの、止めろ、止めろ・・・!」
いくら権さんが暴れても、ムダだったが、声だけは人一倍大きかった。
山市山治は持っていたタオルで、権さんにサルグツワをかましたが、相変わらず手足を動かしてバタバタと暴れていた。
仕方なく、権さんの軽トラックにあった荒縄で亀甲縛りにした。
すると、借りてきたネコみたいに、急に静かになり、ドスンと座り込んでしまったのだ。
「いいねー・・・いいねー・・・いいねー・・・!」
「いいねーーー・いいねーーー・いいねーーー・いいねーーー・・・!」
「いいねーーーーー・いいねーーーーー・いいねーーーーー・いいねーーーーー・・・!」
はたして、快感にめざめたのか・・・・・歓喜の叫びが始まったのだ。
カン高い声は強弱を繰り返しながら、やがてイナリ山の空にコダマした。
しかし、面倒くさいことに、そのなんとも不思議な光景を、たまたま散歩をしていたツル先生に目撃されてしまったのだ。
・・・案の定・・・この出来事は先生により、おみごとに脚色され、翌日には超ヘンターイ・オジヤとして、権さんの名前がイナリ山村民に、たんと知れ渡ってしまったのであーーーるーーーー・・・!
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス