第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(74)
彼は、迷っていた。
はたして、真実を伝えるべきか・・・あるいはこのまま、ただの知人として通すべきか・・・!
ゆらゆらと立ち昇る線香の煙を見つめながら、しばらくの間、思案に暮れていたのだ。
これから先、この子はどうやって生きていくつもりなのだろうか・・・・・施設に入り、一人ぼっちで生きていくのか・・・・・そう思うと、孫娘が、不憫でならなかった。
数々の困難が押し寄せてくるだろう・・・・・やはり、黙って見過ごすことはできない。
彼は意を決っして、打ち明けることにしたのだ。
「・・・実は、伝えなければならないことがあるんです・・・聞いてくれますか・・・?」
少女は、うつむいたままだった。
「驚くかも知れないが・・・私は・・・あなたのお爺ちゃんなんだよ・・・!」
・・・すると・・・少女が静かに顔を上げた。
「・・・知ってるよ・・・・・!」
沈黙の後、はっきりと答えたのだ。
「え・・・え・・・え・・・・・!」
この言葉は、彼を驚かせた。
・・・やがて・・・少女は立ち上がり、部屋の隅にある机に向かっていったのだ。
そして、引き出しから、コクヨのアルバムを持ち出してきたのだ。
何度かページをめくり、その中の一枚を彼に差し出した。
・・・・・それは、若い二人が、仲良く並んで写っているフォト・・・・・なんと、なんと・・・まさしく・・・今は亡き息子と響キヨナだったのだ。
「お母さんが亡くなったら、この写真を持っておじいちゃんの所へ行けと言われていた。」
少女は、ポツリと一言だけ発すると、また下を向いてしまった。
・・・・そうだったのか・・・そうだったのか・・・そうだったのか・・・・・!
写真を握りしめた彼の目から、洪水のように涙が溢れ出た。
気が付くと、強く固めた拳で、自然に畳を叩いていたのだ。
「かわいそうに・・・無念だったろう・・・二人とも、子供を残して旅立ってしまった・・・!」
考えれば考えるほど、残された孫娘が不憫でならなかった。
やっと探し当てた場所が、最愛の母親との別れの場になっていたのだ。
!!!!!!!!!!!
「おじいちゃんと、いっしょに暮らそう・・・・・」
彼の提案に、少女は一瞬、顔をほころばせたが・・・・・やがて、ゆっくりと目をそらしてしまった。
「ダメだよ・・・・・!」
弱々しい声で、答えた。
「そうだね、急に言われても、困ってしまうよね・・・初めて会ったんだもんね・・・でも・・・私はあなたのおじいちゃんだ・・・遠慮する必要はないんだ・・・・・お母さんだって心配するよ・・・・・!」
「ダメ・・・やっぱりダメだよ・・・・・ハカチェと結婚の約束をしたから・・・そばにいないといけないんだよ・・・!」
少女の口から出た言葉は、意外なものだった。
「・・・あの・・・ハカチェ君って、どんな子なのだい・・・?」
彼が問いかけると、少女は得意そうに話し始めた。
「イナリ山小の、同級生だよ・・・わかくさ保育園のふじ組のとき、初恋桜の下で約束をしたんだ・・・それに、私の命の恩人・・・・・いつも、守ってくれた・・・・だから、今度は、ワタシが守る・・・・・!」
しばらく楽しそうに話していたが・・・・・何故か、急に顔を曇らせてしまった。
「・・・でも・・・アイツはバカから、約束を忘れてしまっている・・・・・記憶を失くしてしまった・・・・・だから、いつ思い出してもいいように、そばにいなくてはいけないんだよ・・・・・・!」
恋心を抱いた一途な孫娘が、とてもいとおしかった。
「そうだったんだね・・・じゃー・・・おじいちゃんも、応援するよ・・・キヨナちゃん・・・頑張るんだよ・・・おじいちゃんは、味方だよ・・・!」
初めて名前を呼ばれた少女は、不思議そうに首をかしげたが・・・・・彼の言葉に勇気づけられたようで・・・・・少しずつ笑顔になっていったのだ。
やがて、長い空白を埋めるかのように、とめどなく二人の会話が続いていった。
いつも孤独だった彼が、唯一、家族という温かさを感じた瞬間でもあったのだ。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス