第2章　アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想（７５）
ユリナの亡骸は伊勢崎聖苑で荼毘に伏され、華恋小路家の墓地に埋葬されることになった。
二人は、秘書の山市山治の運転する車に乗り、墓地に向かったのだ。
そこは赤城山の中腹にあり、眼下には関東平野が遠くまで広がり、イナリ山も見える所だ。
後方には、長七郎・地蔵岳・荒山・鍋割の山々が神々しくそびえ立ち、春夏秋冬を通して、色を変えていた。
彼は花束と水桶を持ち、骨壺の箱を胸に抱きしめた孫娘のキヨナと一緒に、ゆるい坂道を静かに上って行った。
数年前に修理された石塔には「憩」と描かれていて、それを囲むように先祖の名前が刻まれた墓石が建っていたのだ。
・・・・・・二人が到着すると、すでに担当の業者が待っていた。
業者は慣れた手つきで重い蓋を開け、墓の中へ入っていった。
前方の棚には息子の修造の骨壺があり、その横にユリナの遺骨が納められることになったのだ。
「位置を確認して下さい。」
業者が問いかけたが、二人はじっと中を見つめているだけで、一言も発しなかった。
「よろしいでしょうか・・・・・？」
二人がうなずくと・・やがて・・・重い蓋が静かに・・・閉じられたのだ・・・・・！
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納骨は、あっという間に終わってしまった。
悲しみに浸る時間もなく、蓋が閉まった瞬間、すべての物がタイムスリップしてしまったかのような錯覚に陥ってしまった。
業者にお礼の挨拶をして帰ってくると、キオナがしきりに墓石を布で拭いていた。
目には大粒の涙が溢れ、頬を濡らしているのがわかった。
「お母さん・・・良かったね・・・でも・・・会いたいよ・・・・！」
そう言いながら、必死に手を動かしていた。
「やっと、お父さんに会えたね・・・・・ずっと、いっしょだよね・・・・・！」
唇からこぼれる言葉に、胸が張り裂けそうになった。
今まで、我慢をしていたのだろう。
母を失った悲しみと無念、天涯孤独になってしまった彼女の気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
彼の目からも、自然と涙が溢れ出した。
ハンカチで何度も抑えたが、溢れだす涙は止めることができなかったのである。
そして、彼もまたキオナと同じように、ひたすら墓石を布で拭きだしたのだ。
小春日和のなか、時折、赤城おろしが吹いて、二人の頬をなぜて行った。
眼下には関東平野が広がり、イナリ山には霞がかかり、ぼやけて見えていた。
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秘書の山市山治の静かな運転で無事に帰宅すると、庭の茂みから唐突に老人が飛び出してきたのだ。
「ワッ・キャ・キャ・キャー・・・・ワッ・キャ・キャ・キャーーー・・・！」
空間を破壊するかのような悲鳴と嗚咽・・・そして強いアルコール臭が漂ってきた。
「ワッ・キャ・キャ・キャー・・・・ワッ・キャ・キャ・キャーーー・・・！」
なんと、上半身裸でヒョウ柄のメガパンツを着用し、赤城印の一升瓶をぶら下げた赤銅色の老人が突如として出現したのだ。
彼にとっては、初めての遭遇であったが、イナリ山ではごく普通に出会う光景でもあった。
そう・・・あれは・・・あれこそがーーーーーー・・・・・・！
イナリ山五大賢人の一人、ツル大先生だったのだーーーー・・・・・・！
しかし・・・何故だ、何故だ、何故なんだーーーー！
よりによって、こんな日に・・・・・こんな所に、ツル大先生が出現したのだろうか・・・！
先生はたんと上機嫌のようで、グイーンと二口ほど清酒を飲み込むと、饒舌に語りだしたのだ。
「諸君・・・キミたちには勉強が一番だ・・・人生は勉強の連続・・・今日も勉強、明日も勉強、その次もその次も勉強だ・・・・勉強に休みはないぞーーー・・・・・！ワシを見ろ、ワシは勉強キングだ・・・勉強会のスーパースターなんじゃ・・・酔ってなんかいねーぞー、ごほうびに勉強水をいただいているのだ・・・これが体に染み込むと、メガパワーで脳ミソが回転するんじゃ・・・・ワシは、イナリ山に教育革命を起こすぞー・・・・・レボリューションじゃー、まいったかー・・・まいった・まいった・まいったモンジャ焼きーーー・・・・・いいか・・・決して酔ってなんかいないぞ、酔ってなんかいないぞーーー・・・勉強水で、脳ミソがメガ回転をしているのじゃー・・・・！」
ツル大先生は、しきりに酔っていないことを強調していたが、完全に酔っていた。
顔をジョロキアのように真っ赤に染めて、意識は四次元の世界にイッテいた。
やがて彼は、上州名物の八木節音頭を狂ったように踊りながら、茂みの中に消えて行ったのだ。
まさに、蜃気楼のような光景・・・・・！！！
全員が・・・ただ唖然と・・・・・見てはいけないものを見てしまったような・・・・・そして・・・金縛りにあってしまったかのように・・・・・しばらくの間・・・身動きができなかったのである。
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来月号に、つ・づ・く　　♪　♪　♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス