第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(80)
三番目の犠牲者は、ロクだった。
彼は秘密基地の準レギュラーで、月一程度で、気が向いた時にやって来ていた。
名前が黒澤なので、ひっくり返して「ロク」と団員から呼ばれていたのだ。
ロクと私は同じクラスで、しかも二人とも「陰キャ」という性格で、互いに目立たないように、ひっそりと学校生活を送っていた。
校庭で整列すると、一番前がロクで二番目が私だった。
つねに二人で最前列を争っていたのだが、中学生になったとたんに、ボルトンのように一気に追い越されてしまったのである。
互いに教室の片隅にいる者同士のためか、いつしか磁石のように引かれるように、仲良くなっていた。
驚いたことに、ロクは、子供の目から見ると、夢のような場所に住んでいた。
少年時代には一度は憧れる、ロビンソンクルーソーのような生活を送っていたのだ。
だが、大人の目から見ると、悲惨なものに見えたかもしれない。
何故なら、彼は叔父の八平さん家の竹藪にある防空壕に、一人で住んでいたからである。
別に、かぐや姫のように竹から生まれたからではない。
最初は、きちんと叔父さんの家に住んでいたのだが、後妻のキミエさんに追い出されてしまったのである。
彼は幼少の頃、両親を失ってしまい、子供のいない八平さん夫婦に引き取られ、大事に育てられていたのだが、ロクが三年生の時に奥さんのタツエさんが、心筋梗塞で突然亡くなってしまったのだ。
やがて、八平さんは後妻を迎えたのだが、これにより、ロクの生活は一変してしまった。
彼女は一見優しそうな熟女だったが、連れ子のユキコのことになると、人が変わったようになってしまうのだ。
ユキコとは同級生で、当時としてはめずらしくクラッシックバレエを習っていた。
彼女は目鼻立ちが整っていて、手足も長く、まさに「掃き溜めにツル」で、イナリ山ではダイヤモンドのように光り輝いていた。
学校でも注目の的で、なんとかお近づきになりたいと、連日、人だかりが出来ていた。
私も教室の片隅からながめていたが、何故、アニメの中にいるヒロインがイナリ山小学校にいるのか、不思議でならなかった。
だから、キミエさんは彼女に毒虫がつかないように真剣だったのだろう。
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ある日、ロクは隣の部屋で優雅に舞うユキコに見とれてしまっていた。
瞳孔が緩み、ヨダレを流し、マヌケ顔で障子の隙間から鑑賞していたのだ。
彼女はまさしく、地上に舞い降りた天使だった。
十年に一度、いや百年に一度、このイナリ山に出現するかもしれない美少女だった。
だが、運の悪いことに、その姿をキミエさんに見つかってしまったのだ。
「なにしているんだー、このロクデナシ野郎、とっとと出ていけーー・・・!」
キミエさんは、手当りしだいに凶器となる物を投げつけたのだが、その中の桑切カマがロクの脳天に突き刺さり、ドバッと出血したのだ。
ただならぬ形相のキミエさんに恐れをなして、彼はカマが突き刺さったまま、一目散に逃げ出したのだ。
その逃亡先が、竹藪の中にある防空壕だった。
キミエさんの怒りはその後も解けず、結局、そこがロクの終の棲家になったのである。
「これが、その時のキズさー、血が噴き出してさー、スゴかったんさーー・・・!」
そう言って、彼は後頭部を私に見せてくれたが、たしかに5センチほどの傷跡があった。
「いくらなんでも、ヒデーんじゃねー、おめー、大丈夫かー・・・!」
私の問いかけに、ロクはただ笑っているだけだった。
子供ながら、自分の置かれた状況を理解して、悲しみを心の中に必死になって押し込めているように思えた。
彼のアイロニーを見て、それ以上に問いかけることはできなかったのである。
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P・S
ロクの住んでいた防空壕は、奥行きが10メートルほどあり、中央には15畳ほどの空間が広がっていた。
壁は石積みになっていて、後で判明したのだが、紀元前1世紀後半に造られた、古墳のようだった。
戦時中に使用した防空壕だと勘違いをして、歴史的重要性をまったく知らずにいたのだ。
年代からして弥生時代の物らしく、壊れた薄茶色のツボの破片がいくつかあった。
それは古代の文様が入っていて、とてもシャレたものだった。
ここは、夏は涼しく、冬は暖かく、住み心地がバツグンだった。
まさに、ファンタジーな世界がそこにあったのである。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス