第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(81)
後妻のキミエさんにより追放されたロクは、防空壕で自給自足の生活を送ることになってしまった。
最初は戸惑っていたようだが、竹藪とそれに続く裏山を探検した結果、ここは食物の宝庫だったことが判明した。
タケノコ、自然薯、アケビ、山ブドウ、ワラビ等・・・山の恵みに溢れていたのだ。
それに、コジュウケイやキジの卵も、貴重なタンパク源になった。
ワナを仕掛けてイノシシを捕獲し、自然と共生することを学んだのだ。
飲料水は、裏山との境にある湧水を利用し、風呂は途中を1メートルほど掘り下げて浸かり、小川で捕まえたドジョウやウグイを放流して、一緒に水浴びをしていた。
それらは、食糧が不足をすると、貴重なタンパク源として、ロクの腹に収まったのである。
こう書くと、地上の楽園のように思えるが、現実は厳しかったようだ。
特に、植物が枯れる冬は大変だったようで、食料の確保に苦しめられた。
そのため、現金収入を求めて新聞配達をしていた。
自転車がないため、風雨の中でも、毎日走って配達をしていたのだが、彼の驚異的な根性と持久力は、ここで鍛えられたものだったのである。
!!!!!!!!!!
ロクは無口な人間のように思えたが、親しくなるにつれて「ここだけの話だよ」と言いながら、ボソボソと身の上話をするようになった。
「俺ん家はなー、昔はなー、大地主だったんだぜー・・・でもなー、先代の悟助爺さんが、大酒飲みの道楽者でなー、みんな売っぱらっちまつたんさー・・・!」
彼は、憎しみを込めて、ゆっくりと語り始めた。
「父ちゃんが子供の頃には専用の馬車があってなー、それでパーティーに行っていたんだぜー・・・家には専属のコックさんがいてなー、厚さが5センチもある牛肉を食っていたんだぜー・・・!」
世が世ならば、自分は上流階級の人間なのだ、特別な存在だったのだと、私を相手に熱弁をふるっていた。
「スゲー、スゲー・・・牛肉なんて、食ったことねーぞー・・・・・厚さが.5センチもある肉なんて、硬くて食えるんきゃー・・・!」
すると、ロクは水を得た魚のように、生き生きと語ったのだ。
「オメーには、わかんねんべーなー・・・これがよー、柔らかくてよー、たまんねーんさーねー・・・なんせ、モノが違うかんねー・・・!」
私が持ち上げると、ロクは益々饒舌になっていった。
「大酒飲みの悟助爺さんがいなければなー・・・・オレだってよー・・・チクショー・・・チクショー・・・チクショー・・・・・!そうだんべー・・・そうだんべー・・・チクショウメー・・・・・!」
彼は涙を浮かべ、体全体を震わせながら悔しがっていた。
!!!!!!!!!
だが・・・私は・・・知っていた。
何故なら、この手の話はどこにでもあったからだ。
決して、めずらしいものではなかった。
団員のタケん家は、イナリ山城の家老をやっていて、植木職人を10人も雇うような豪邸に住んでいたと言っていた。
やはり、放蕩者の爺さんが大酒飲みで、借金のカタに取られてしまったのだそうだ。
ハツん家は、絹問屋を営んでいたが、ギャンブル好きな三代前の爺さんが全財産をつぎ込んでしまって、スッカラカンになってしまったということだった。
かつて、その話を検証するために、イナリ山を隅から隅まで調査をしたことがあったが、植木職人を10人も雇うような大豪邸も絹問屋も、まるっきり存在しなかった。
イナリ山は、どこにでもある・・・ありふれた、農村地帯だった。
三人に共通して言えることは、何代か前に放蕩爺さんがいて、全財産を食いつぶしてしまったということだった。
「あんな爺さんがいなければ、オレたちはもっと良い生活が出来ていたんだー・・・!」
彼らは、○○爺さんの仕業を恨み、一応に今の生活を呪っていた。
なんて酷い爺さんたちだと同情しつつ・・・もしかして、他の家にも道楽者の爺さんが存在していたのではないかと聞き込み調査を行ったことがあった。
すると「ここだけの話だけんどもよー」と、言いながら、何のためらいもなく語ってくれたのだが・・・なんと・・・なんと・・・とっとっとーーーん・・・・・!
クラスメイトの2分の1の家に、放蕩者の○○爺さん伝説が存在していたのである。
世の中に、こんなにも沢山の○○爺さんが存在していたことに、ただただ驚愕するばかりであっのだ。
!!!!!!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス