第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(86)
利根川の秘密基地へ向かうルートは、宮川の川底である。
そこは韮川の分水路で、稲作に水を供給する為の水路であり、夏の間だけ使用されているものであった。
秋になると水門が閉ざされ、10月になる頃には完全に干し上っていた。
堤防の高さは5メートルほどあり、中に入ると両サイドが完全に外界から遮断されて、隠密行動を好むチミー隊長にとっては、最高のルートであったと言える。
また、干し上った川底には、沢山の生活物資が散乱していて、団員たちもこのルートを通ることが楽しみの一つであった。
着物、帽子、野菜、新聞等・・・人々が生活するために使用していたものが、いたるところで発見された。
中でも、団員たちが争うように探し求めていた物は、靴とスリッパであった。
これらは、今日の吉凶を占うアイテムとして使用されるもので、片足を差し込んで、天高く飛ばすのである。
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早速、川底に入ると、タケが子供用の長靴を発見した。
「おい、これなんかいいんじゃねーか、一発、決めてやんべーじゃねーかー・・・!」
そう言うと、右足を差し込んだ赤い長靴を、思いっきり空中に飛ばしたのである。
天高く蹴り上げた靴は、青空に吸い込まれるように上昇し、やがて放物線を描きながら落下していった。
ところが突然、先頭を行く軍師が、頭を抱えてうずくまったのだ。
「うー、痛テー、痛テー、ウーウーウー・・・!」
お見事に・・・チミー隊長の脳天に、命中したのである。
彼は激痛のために、しばらくの間、動くことが出来なかった。
「おい、見ろよ、見ろよ・・・スゲーぞ、スゲーぞ・・・!」
タケの指さす方向を見ると、長靴が切株の上に、大仏のように鎮座していたのだ。
「スゲーぞ、スゲーぞ、スゲーぞ・・・今日は、良いことがあるんじゃねー・・・!」
「そうだ、そうだ、そうだ・・・今日は、良いことがあるんべー・・・!」
隊長のことなどまるっきり眼中にないかのように、団員たちは盛り上がっていた。
「よーし、今度はオレの番だんべー・・・!」
二番手のハツが長靴に左足を入れて、力いっぱいに跳ね上げた。
それは空中に吸い込まれるように飛んで行き、たんと放物線を描きながら落下していった。
その瞬間、又しても、先頭を行く軍師が、頭を抱えてうずくまったのである。
「うー、痛テー、ウーウーウー・・・!」
またまた運の悪いことに、軍師の脳天に、命中したのである。
彼は激痛のために、枯草の中にダイブしてしまった。
「おい、見ろよ、見ろよ・・・スゲーぞ、スゲーぞ・・・!」
タケの指さす方向を見ると、バウンドした長靴が、雑木の枝の間にスッポリと収まっていたのである。
「スゲーぞ、スゲーぞ、スゲーぞ・・・こりゃーストライクだなー・・・!今日は、良いことがあるんじゃねー・・・!」
「そうだ、そうだ、そうだ・・・連チャンだぜー、今日は、良いことがあるんべー・・・!」
団員たちが騒いでいると、頭をかかえた軍師がヨロヨロと立ち上がった。
「オイ、テメーら、いいがげんにしろよー、ふざけてんじゃねーぞー・・・!」
チミー隊長はご立腹のようだったが、団員たちは、それを無視するかのようにラッキー現象に大喜びをしていた。
アン・ラッキーなのは、軍師に変身した隊長だけだった。
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すると、ロクが石の間に挟まっていた雑誌を見つけたのだ。
「あれー、これはアレじゃねーかー・・・ビニ本というヤツじゃねーかー・・・!」
ビニ本とは、1970年代に流行した過激な露出を売り物にした成人雑誌で、立ち読み防止のために、ビニールで包装したものである。
今では死語になっているが、当時はそれを見るだけでめくるめく未知なる大人の世界を想像できたスペシャル・アイテムだったのだ。
「スゲーぞ、スゲーぞ、スゲーぞ、・・・!」
さっきまで頭を抱えていたチミー隊長が、急に身を乗り出してきた。
「こういうものはだなー、オメーたちのようなオコチャマには、目の毒だー、オレがキッチリと処分しとくんべー・・・!」
いきなり雑誌を掴んで奪い取ろうとしたが、団員たちも参戦して、壮絶な奪い合いになってしまった。
「オレが処分するんべー・・・いや、オレが処分するんべー・・・オレに任せろー・・・オレに任せてくれー・・・オメーにはまだ早いんべー・・・オメーには目の毒だー・・・いんや、いんや、オレだー、オレだー・・・!」
争奪戦の末、水に濡れた雑誌は、あっという間に千切れて粉々になってしまった。
残念なことに、団員たちは、めくるめく未知なる大人のスペシャル・ワールドをのぞき込むことが出来なかったのであーる。
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来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス