第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(93)
ツル大先生VSミコト婆さんの戦いは、圧倒的なパワーの差で、ミコト婆さんが勝利した。
彼女が使用したジェツト噴射は、すべてのものを蹴散らし、戦意を喪失させ、相手を恐怖に陥れてしまうのである。
イナリ山でこのアイテムを使いこなせるのは、おそらくミコト婆さんだけであろう。
彼女は、唯一無二の存在なのだ。
「あの野郎、相変わらず懲りないヤツだよ。学校の先生だったのに、農地改革を理解できていねんだ。まったくよー、いつから大地主の気分になっちまったんかのー、昼間っからチューを飲んじゃってよー、人の家に押しかけてきてよー、困ったもんだよバカ者がー・・・・・・!」
彼女は、独り言をつぶやきがら、両手に着いたアンモニアをパタパタと振り払い、家の中に入ってきた。
すると、突然、ハツが立ち上がり、歌い始めたのだ。
「♪ 村の鎮守の神様の 今日はめでたい御祭日
ドンドンヒャララ ドンヒャララ
ドンドンヒャララ ドンヒャララ
朝から聞こえる 笛太鼓   ♪」
これは、我々少年ホースが勇者をたたえる時に歌う、童謡なのである。
ハツが歌いだすと、ロクと私が立ち上がり、ドンドンヒャララ・ドンヒャララと叫びながら踊りだした。
ミコト婆さんは、何が始まったのかと最初は怪訝そうな顔つきをしていたが、やがて理解することを諦めたようで、我々の輪の中に飛び込んで来た。
これを10回ほど繰り替えし、ハツは2曲目に入ったのだ。
もちろん、その歌は、作詞・門井八郎、作曲・長津義司、歌手・三波春夫の名曲「チャンチキおけさ」である。
「♪ 月がわびしい 路地裏の 屋台の酒の ほろ苦さ
知らぬ同士が 小皿叩いて チャンチキおけさ
おけさせつなや やるせなや  ♪    」
ハツが歌い始めると、待ってましたとばかりに食器棚から小皿とハシを取り出し、狂ったように叩きはじめたのだ。
ミコト婆さんも参戦して、小皿の叩たき合いが、しばらくの間続いたのである。
!!!!!!!!!
「おー、賑やかにやってるねー・・・!」
薄汚れてた引き戸を開けて入ってきたのは、ロクの姉のカズコであった。
彼女は、紺のブルマに半袖の体操着を着用していた。
ランニングの後なのであろう・・・長い髪の毛を一本縛りにして、顔に汗をにじませていた。
スラリと伸びた両足と大きな目が、差し込んだ太陽の光をあびてキュンキュンと輝き、一瞬、ゴクリと唾を飲み込むような美しきオーラを放っていた。
「誰だい、歌い手は・・・いい声をしているねー・・・!」
彼女の問いかけに、ハツは、まるで電柱のように硬直して、意識は遥かイスタンブールに飛んでしまった。
・・・瞳孔が完全に開き・・・ふらつきながら・・・前に倒れ掛かってしまったのだ。
「おい、大丈夫か・・・?」
寸前のところでカズコが受け止めてくれたのだか、意識が戻った瞬間、彼女の整った顔を間近で見て、またしても、ハツは失神してしまったのである。
愛しいカズコの胸の中で、彼は「月の砂漠」を歌いながら、たどり着いたオアシスで幸せを噛みしめていたのである。
!!!!!!!!! 「おい、いつまでも寝てねーでよー・・・もう一曲、歌ってくれねーかー・・・!」
軽いアンモニ臭の移り香に、意識が戻ったのだ。
ふと、目を開けると、ミコト婆さんの顔が、ぼやけて見えた。
「ウ・ウ・ウ・ウソ・ウソ・ホント・・・ウソ・ウソ・ホント・・・?」
いつの間にかすり替わってしまったのだろうか。
愛しのカズコ様だと思っていたのが、ジェツト噴射のミコト婆さんに代わっていた・・・?
・・・ウソだろー・・・オレの・・・オレの幸せを返してくれー・・・!
ハツはヒョイと立ち上がり、何事もなかったかのように、3曲目を歌いだしたのである。
もちろん、その歌は、作詞・関沢新一、作曲・市川昭介、歌手・村田英雄である。
「♪ 皆の衆 皆の衆 嬉しかったら 腹から笑え
悲しかったら 泣けばよい
無理はよそうで 体に悪い   ♪  」
天国から真っ逆さまに地獄に突き落とされたハツは、溢れる涙をこらえながら思いっきり歌ったのである。
!!!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス