第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(100)
号砲と共に飛び出したのは、やはり前年度優勝者の青田万典であった。
若干、内股のフォームが気になったが、自信に満ち溢れた走りで,一気に後者を引き離して行った。
浅間団の柿沼雪之丞がそれに続き、予想に反して我らがチミー隊長は3番目、ハツ君は4番目だった。
万典の内股に対してハツ君は外股であったが、30メートルを過ぎた頃になると、突然、ロケットのように外股がグイーン・グイーーンと急加速を始めたのである。
「ごぼう抜き」とは、このことなのだろう。
あっという間に2人を抜き去り、すぐに万典の肩に並び、更に差を拡げ始めようとしていた。
それに気づいた万典は、卑怯にもハツ君のシャツを掴んで妨害工作を開始したのだが・・・
異次元のスピードについて行くことが出来ず、まるでスカイダイビングの選手のように両手両足を拡げ、隣の隊長のコースにダイブしてしまったのだ。
だが、いきなり現れた障害物を避ける事はできず、チミー隊長は思いっきり万典を踏みつけてしまった。
あまりの重量に、一瞬、エビのように体が反り返った・・・
が、やがて干からびたカエルのように体をピクピクと震動させ、しばらくの間、その場に放置されていた。
一方、ハツ君のスピードは衰えることはなく、2番手の雪之丞を20メートルも引き離して、ゴールへ飛び込んだのである。
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「ウオー・ウオー・ウオー・・・ウオー・ウオー・ウオー・・・!」
地面を揺るがす歓喜の声で、鼓膜が破壊されそうであった。
まさに「ぶっちぎりの勝利」とは、このことを言うのだろう。
「おい、おい、おい・・・スゲーもんを見ちゃったなー・・・スゲーぜ・スゲーぜ・スゴすぎるんべー・・・ハッが、やってくれたぜー・・・!」
一瞬の沈黙の後、ロクが大声で叫んだ。
「本当だぜー・・・もう、ハツなんて呼べねーぜ・・・ハツ様だぜー・・・!」
私も興奮して、叫んでしまった。
「ちょつと足が速いと思っていたが、こんなにもスゲー奴だとは思わなかったなー・・・!」
ウンウンと納得したように、ロクが言った。
「そんだ、そんだ・・・いやー、イナリ山に、こんな超人が住んでいたとはなー・・・しかも、同級生だぜー・・・県大会で優勝できるんじゃねーのかなー・・・!」
私は素直に、そう思ったのである。
「国体でも優勝だんべーなー・・・!」
「いやー・・・日本で優勝だなー・・・!」
「こうなったら、オリンピックで優勝だんべなー」
イナリ山に出現したヒーローに、私とロクはしばらくの間、感動しまくっていたのである。
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「おい、ハカチェ・・・そろそろいんじゃねーのかー・・・いんじゃねーのかー・・・!」
ロクが意地悪そうな顔で、私の脇をチョンチョンと突いた。
「そうだなー、お約束だかんなー・・・あんだけブチかましたんだから、忘れるわけがねーよなー・・・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・キョ・キョ・キョ・キョ・・・!」
そう言いながら周囲を見渡したが、米山寅太郎の姿がないのである。
忍者のようにドロンと、見事にトンズラをかましたのだ。
「あの野郎ー・・・ふざけた奴だぜー・・・どこへ、行ったんだー・・・大ボラ吹き野郎めー・・・とっ捕まえてやんべー・・・!」
ロクが、必死の形相で捜索を開始した。
すると、本部席にあるゴミ箱の中で、カメ虫のように両手両足を抱えた逃亡者を発見したのだ。
「ハカチェ・・・ク・ク・ク・ク・・・・ゴミが散らかっているからよー・・・ボランティアをしようぜ・・・!」
彼は左手で指さしながら,米山寅太郎に聞こえるように大声で叫んだ。
「そうだなー、やっぱり、きれいな方がいいからな・・・掃除をしようぜ・・・!」
二人は阿吽の呼吸で、散乱したゴミを集め、どんどんと箱に投入し、人の背丈程に積み上げた。
ロクと私がクスクスと笑いながら観察していると、ゴミ箱が揺れ出したのである。
「これ以上は、入らないからな・・・上から押して、もっと入るようにすんべー・・・!」
箱の上に飛び乗ったロクは、ドシン・ドシンと思いっきり踏みつけたのである。
「うわー、助けてくれー、助けてくれー・・・!」
遂に耐えられなくなった米山寅太郎が、黒船海賊ゲームのように飛び出して来たのだ。
彼の頭には、露天で買った焼きそばのメンと青ノリが、しっかりと付着していた。
青ノリ野郎は、なんと優勝したハツと同じくらいのスピードで走り去ったのだ。
逃走する後ろ姿を見て、こんなことなら万典の代わりに寅太郎が出場した方が良かったのではないかと、つくづく思ったのである。
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P.S
・・・かくして・・・春のイナリ山住民体育祭は幕を閉じたのであったが・・・優勝したハツくんの人生は、これから目まぐるしく変わって行くのだ。
一瞬の出来事で運をつかんだ彼は、輝かしい未来に向かって突き進んで行くのである。
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来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス