第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(101)
タケの勝利は、時速20ロメートルのスピードでイナリ山を駆け回り、その日の夜には、住民全員が知る事となった。
突然出現したヒーローに、村民たちは歓喜の渦に包まれ、「めでたい!めでたい!」と、一晩中、騒いでいた。
久しぶりの朗報に、イナリ山村民の脳内には大量のドーパミンが溢れ、それを祝うために正直屋の焼酎が大量に売れて、思わぬ経済効果を生んだのである。
中には、何故めでたいのか理解していない者もいて、酩酊したあげくに竹ヤブに頭から突き刺さっている輩もいた。
そのお調子者は、イノクマさんとカメ師匠である。
タケは、イナリ山住民体育祭の100メートル競争で1位になっただけなのであるが、翌日には、何故か伊勢崎市で1位になっていた。
さらに翌々日には、群馬県でぶっちぎりの1位と訂正され日を追うごとに関東大会、東日本大会、全日本大会、アジア大会、世界大会へとグレードアップして行ったのでる。
もちろん、これはフェイクニュースであるが、話の発信元は脚色家のツル先生である。
少しでも酒が飲みたいという意地汚い根性が、そうさせたのであろう。
!!!!!!!!!!!
翌日、タケが通学路を歩いていると、沢山の温かい視線を浴びたのである。
村民は、最初は眺めているだけであったが、やがて少しずつ距離を縮めて、フレンドリーに握手を求めて来たのだ。
それも、一人や二人ではなかった。
イナリ山に、こんなにも人が存在しているのだろうかと思うくらい沢山の方々に握手を求められた。
「これ食いなー!、これでも食いなー!」と、握手の後に、イナリ山特産のナスやキュウリをたんとプレゼントしてくれたのである。
その量はどんどんと増えて、学校に着く頃には両手に抱えきれないほどになっていた。
どうやって家に持ち帰ろうかと思案していると、
「タケくーん、タケくーん、タケくーん・・・!」
遠くから、クラスの№2アイドルであるミホ子ちゃんが近寄ってきたのであるが、彼はどのように対応してよいのか解らず、挙動不審者のようにキョロキョロと、ただ周囲を見回しているばかりであった。
「ウソだろう、オレを呼ぶわけがねーよなー・・・?」
普段なら、近寄っただけで気持ち悪いと避けられていた存在である。
まさか、クラスの№2アイドルからお声が掛かるはずもない。
ボーっと立っていると、今度はクラスの№1アイドルのタマエさんが近づいてきたのだ。
「タケくーん、荷物が大変ねー、私がお手伝いをするわー・・・!」
半信半疑で立っていると、彼女が野菜を半分抱えてくれたのだ。
この状況に、彼の頭は混乱して、たんと整理がつかなかった。
「ずるーい、ずるーい、私の方が先に声をかけたのよー、ねータケくーん・・・!」
彼女は、タケに相槌を求めて、ニコリと微笑んだのだ。
今まで遭遇したことのない出来事に直面して、「ズドーン!」と一発で、ハートを撃ち抜かれてしまった。
彼は戸惑い、どう行動して良いのか、躊躇するばかりであった。
「これは現実なのか、オレは夢を見ているのだろうか、カメ師匠に呪文を掛けられたのだろうか・・・夢よ、冷めないでくれー・・・オレは、幸せ者だー・・・ウ・ヒョ・ヒョ・ヒョ・・・!」
タケは心の中で、思いっきり叫び、一気に天国へ登って行った。
今まさに、人生最高のモテ期がやって来たのだ。
その証拠に、一人・二人・三人・・・三十人と、同級生はもちろんのこと、上級生の女子までもが集まって来ているではないか。
中には、興奮してキャーキャーと泣き叫ぶ女子もいた。
失神して倒れた者もいる・・・もちろん、これは冗談であるが。
人生は、捨てたものではないぞ!
何が起こるか判らない。
暗いトンネルを抜けて・・・タケ君のモテモテ人生が・・・今、ここから始まって行くのであーる。
!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス