第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(103)
イナリ山村議会では、正月明けにビックプロジェクトが採択された。
それは、ツル先生が見た初夢から提案されたもので、他人よりもイッチャっている村人を、発見して育てようというものであった。
ジャンルは問わないということで、芸能・教育・スポーツ・・・・・等、すべての分野に目を向けるという画期的なものであった。
しかし、もともと人口の少ないイナリ山では、なかなか対象者が見つからなかった。
芸能関係では、狂ったように八木節を踊るカメ師匠が選出されたが、あまりにも品がないということで、即座に却下されてしまった。
教育関係では、イナリ山に教育革命を起こすと常々叫んでいたツル先生が自薦で候補に上がったが、「酒の飲み過ぎで意地汚い」という意見が多数を占め、ボツになった。
その他に、万里の頂上まで透視できるというイナリ山の守護神・万里眼ビック・バーバン、芸術的な逆V字型放水を得意とするロクの婆さん、ゴケ殺しの異名を持つイノクマさんの名が候補に上がったが、どれも今一つで、決定打に欠けていた。
そんな時、突如として最有力候補になったのがハツ君であった。
彼は、利根川事変2でカズコの救出に失敗し、それから逃れるために全走力で逃亡していた。
からっ風の吹きすさぶ中、新幹線ヒカリのように走る姿を、選考委員のハットリさんが遠くから目撃したのだ。
!!!!!!!!!!!!
野良仕事が一段落したハットリさんは、いつものように縁側で干柿を食べながら、正直屋の安いお茶を飲んでいたのだか、ふと堤防に目を向けると小さな物体が物凄いスピードで移動しているのを発見した。
「あ・あ・あ・・・あれは何んだんべ・・・自転車か、自動車か、ロケットか・・・いやいやいや・・・スーパーカーだんべか・・・!」
ハットリさんは、小さな目をたんと大きく開けて、必死で確認しようと脚立に登った。
「なんと・なんと・なんとーーーーん・・・100万トンだんべー・・・!イナリ山で、こんな速い物は見たことねーぞー・・・おーい、婆さん・・・婆さんやーい、ちょっくら、こっちに来てくんねー・・・!」
妻のシメ子さんを大声で呼んだ拍子に、彼は脚立の上から落下して気絶してしまったのだ。
さながら、プロレスの雪崩式バックドロップを喰らったかのような、みごとな光景だった。
ハットリさんがカニのように泡を吹いて倒れている間に、ハツ君は疾風のごとく走り去ってしまった。
「あんれよー、爺さんが泡を吹いて寝転んでいるよー・・・まったくもー瞳孔が開いているぞ・・・いい気なもんだー・・・!」
やってきたシメ子さんは、呆れたようにつぶやいた。
「ほんれ・ほんれ起きろ、起きねーと水をぶっかけるぞ・・・!・・・まったくもーどうしょうもねー爺さんだなー・・・!」
そう言いながら、彼女はタライに井戸水をたんと入れて、ハットリさんの顔面にぶちまけたのだ。
「オーおーおー・・・オーおーおー・・・!」
すると、彼はすばやく立ち上がり、何かに怯えたかのように、必死に天を拝んでいた。
「爺さん、目がさめたきゃー・・・きゃ・きゃ・きゃ・・・!」
「オーおーおー・・・オーおーおー・・・!」
同じ事を繰り返すご主人に、シメ子さんすっかり呆れたようで、お代わりの水を追加した。
「ほんとうにもー、どうしょうもねー爺さんだよ、しっかりすんろー・・・!」
「オーおーおー・・・オーおーおー・・・!」
「何が、オーおーおーだよー・・・!」
「見つけたぞー、見つけたぞー、見つけたぞー・・・!」
ハットリさんは、小踊りをして全身で喜んでいた。
「何が、そんなに嬉しいんだよー・・・イナリ山に、そんな嬉しいもんなんてねーだんべー生きてきて、今までなかったぞー・・・!」
シメ子さんは、ウンザリしたと言わんばかりに、ヘチマのような顔をしていた。
「とうとう見つけたぞー、イナリ山の宝だ、希望の星だー、ダイヤモンドだー・・・!」
ハットリさんの歓喜の雄叫びが、イナリ山の空にコダマなって響いていた。
P.S
こうしてハットリさんによって見出されたハツ君は、瞬く間にいなり山のヒーローになったのだ。
その後、彼は走る度に記録を更新し、順風満帆の人生を送ることになったのだが、何故か、心の中に刺さったトゲのようなものに悩まされていた。
それは、利根川事変2でカズコを救出できずに逃亡してしまった事への贖罪でもあったのだ。
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス