第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(104)
10年後、タケはブクロの路地裏で、泡を吹いて悶絶していた。
ことの発端は、バイト先の窓ガラス越に見覚えのある人物を発見し、なんとなく後をつけたことから始まった。
夢遊病者のようにフラフラと歩きながら付いていくと、四つ角を曲がった瞬間、魔法のように消えてしまったのである。
驚いてキョロキョロと周囲を見回していると、突然、バックからスリーパーホールドを決められた。
強烈な締め付けに、ウー・ウー・ウー!!!と唸りながら手足をバタつかせていると、体が急に宙に浮き、今度はロメロスペシャルに変わった。
やがて、手足の感覚がなくなる寸前に地面に放り出され、サソリ固を決められたのだ。
まるで水が流れるかのように、一連の動作は華麗に続いていった。
ハツは、必死の形相で地面をタップしたが、相手の力は弱くなることはなかった。
「違うんです、違うんです・・・誤解です・・・!」
なんとか相手を説得しようと試みたが、勢いは弱くなるどころか、ますます強くなるばかりであった。
まるで、体が二つに折れ曲がったかのように、サソリの毒が急激に注入されていったのである。
「何が違うんだよー、この変体野郎めー・・・よくも人の後をつけやがったな・・・てめー、女だと思ってナメてんのかー・・・!」
「すいません、すいません・・・誤解です・・・!」
「誤解だと・・・おめーみてーな野郎は、腰が立たなくしてやるぞー・・・!」
相手の怒りは収まることはなく・・・やがてタケは、アワを吹いて失神してしまった。
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順風満帆な彼の人生は、東京の大学に推薦入学した一年の夏に突如として狂い始めた。
大勢の人が集まる東京では、素質も実力もまさに格段の差があることに気が付いたのだ。
「井の中の蛙」だったと、この時に初めて悟った。
イナリ山では、周囲から持ち上げられて天才の名を欲しいままにしていたが、まさにヒゲの生えたドジョウであった。
自分の実力を思い知った彼は、初めての挫折を味わったのだ。
その焦りからか、無理な練習がたたり、スプリンターとして大切なアキレス腱を損傷してしまったのである。
タケは、全てが慣れない都会で、次第に無気力になって行った。
そんな時、故郷のイナリ山を思い出して、東京の女子大に通うかつての№1アイドルのタマエさんと、№2アイドルのミホ子ちゃんに連絡を取ってみた。
「久しぶりー、タマエさん・・・元気ですか・・・会えませんかー・・・!」
しかし、返事は思っていたものとは違い、ツレないものだった。
「ごめんね・・・今忙しくて・・・今度ね・・・!」
昔の頃ならば、キャーキャー言いながらやってきたものだが、返事は、ハツの心を傷つけるものだった。
気を取り直して、№2アイドルのミホ子さんに電話をしたのだが、案の定、これも予想外のものだった。
「ミホ子さん、元気ですかー・・・顔をみたいんだけれどー、ハチ公前で会えませんか・・・!」
「いやだーもー・・・私ね、今、気になっている人がいるの・・・今度いっしょに出かけるのよ・・・だから、もう連絡をしてこないでねー・・・!」
あんなに慕ってくれていた人が、知らないうちに心変わりをしていた。
つくづく「東京は怖えーとこじゃー・・・!」と、再認識したのである。
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そんな時だった。
タケがバイトをしている大衆酒場の前を、カズコに似た人物が通り過ぎたのである。
彼女は同級生のロクの姉で、何年か前に女子プロレスに憧れて東京に出てきたはずだった。
今ごろは大活躍をしているはずなのだが、前を歩いていた人物は、白塗りの派手なメイクをしたお姉ちゃんだった。
服装もキラキラしたもので、一見して見間違いそうであったが、特徴のある切れ長の目がハツの記憶を呼び覚ました。
「いったい、何があったのだろうか・・・東京は怖えー所じゃー・・・みんな、人を変えてしまうのかー・・・!」
ほんの少し左足を引きずりながら歩く女性の後を、彼は無意識のうちに追跡していた。
だが、この時には・・・まだ・・・ロメロスペシャルとサソリ固の餌食になろうとは、夢にも思わなかったのである。
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来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス