第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(107)
顔を赤く染めながら廊下の奥に消えてしまったオーナーが、再びハツの前に現れたのは、5分後の事であった。
大きなボンボン時計が夜中の12時を刻んだ瞬間、それに合わせるかのように
たぶん巣鴨で購入したであろう紺の三度傘と赤いカッパをはおり、腰に一本刀を差し、口に5センチほどの爪楊枝を咥えて、颯爽と登場したのである。
「木枯らし紋次郎」に思いっきり寄せているつもりなのであろう・・・が・・・
とにかく、残念だった。
着こなしが雑で、見るからにダラしない。
しかも、パッチや靴下に穴があいていた。
ハツが怪訝そうな顔をして見つめていると、オーナーはシューシューと息を吐き出すそぶりをした。
次の瞬間、予想したとおり、口元から爪楊枝が発射されたのだが・・・
これまた残念であるが、飛距離は50センチ程に満たなかった。
やはり、肺活量が小さいのであろう。
彼は、ゼーゼーと息を切らしていた。
「あっしには、関係ねーことでござんす・・・!」
「えー、何々、何ですかー・・・?」
「あっしには、関係ねーことでござんす・・・!」
「えー、何々、何ですかー・・・?」
無意味な会話が、何度か繰り返されていった。
!!!!!!!!!!!!
「ところで、あんちゃんは上州の生まれかい。」
ここで、やっとまともな会話が生まれた。
「はい、そうです。」
ハツは、言葉少なめに答えた。
「そうかい・そうかい・そうかーい・・・そうかい・そうかい・そうかーい・・・!」
オーナーは、とても爽快だった。
「上州は、新田郡の生まれかーい・・・!」
彼は、どうしても「木枯らし紋次郎」に紐付けをしたいようだった。
「違います。イナリ山の生まれです。」
「そうかい・そうかい・そうかーい・・・そうかい・そうかい・そうかーい・・・!」
オーナーは、ますます爽快だったが、彼は何だかバカにされているようで、次第に腹立たしくなってきた。
「帰ります・・・!」
「え・え・え・え・え・・・・・何を言っちゃつてんのー・・・!」
「だから、帰ります・・・!」
「そう言わずに、落ち着いてよー・・・いま入居すると特典があるのよー、
スゴイんだからー・・・アンタ、ラッキョウよー・・・!」
彼は小指を立てて、怪しい熱視線をハツにそそいだ。
「やっぱり、帰ります・・・!」
「落ち着いて、落ち着いてよー・・・本当に、いま入居すると特典があるのよー、
スンゴイんだからー・・・アンタ、ラッキョウよー・・・!」
「ラッキョウじゃなくて、ラッキーじゃないですか・・・!」
ハツは、ますます腹が立ってきた。
「ジョーク・ジョーク・・・モー・モーモー・・・上州の人って気が短いんだから・・・
二階の貴賓室が空いているのよ・・・見晴らしバツグン・・・しかも、
隣のニューロマン荘がマル見えなのよー・・・見放題なのよ・・・
ウ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・ステキな出会いがあるかもしれないわよー・・・
あんちゃんはスキでしょー・・・モー・モー・モー・・・でもねー、オオカミ君になっちゃーダメよ・・・ここは、東京だからねー・・・!」
「何を言ってるんですか・・・東京じゃなくでも、ダメですよー・・・!」
ハツの苛立ちは、マックスに達した。
「面白いわね、上州の人って・・・ジョーダンよジョーダン・・・中段、下段、剣道5段なんちゃつて・・・モーモーモー・・・牛さんは、ホルスタインね・・・
キョ・キョ・キョ・キョ・キョ・・・・・・!」
ハツは、とうとう耐えられなくなってきた
「帰ります・・・!」
「え・え・え・え・え・・・・・何を言っちゃつてんのー・・・!」
「だから、帰ります・・・!」
「そう言わずに、落ち着いてよー・・・いま入居すると特典があるのよー、スゴイんだからー・・・アンタ、ラッキョウよー・・・!」
無意味な会話は、しばらくの間、続いて行ったのである。
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来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス