第2章　アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想（１０８）
オーナーの饒舌なトークに引き込まれて、ハツはニューブクロ荘を内覧することになってしまった。
「アンタは超ラッキョウよ・・・強運の星の下に生まれたのね・・・すごいわね～～～ん、グレードね～～～ん・・・モーモーモー・・・もちろん牛さんは、ホルスタインね～～～・・・！」
彼は、ビブラートをきかせた声で、同じ言葉を何度も繰り返していた。
ハツには、ラッキョウもホルスタインも意味不明なものに聞こえていたが、時間の経過とともに、意図的にバカにされているようで、腹が立ってきた。
しばらく躊躇していたが・・・さりげなく反撃を開始することにしたのである。
「オーナーは大根みたいに肌が白いですね。それにウニみたいに剛毛ですね。
・・・羨望の眼差しですよ・・・オーナーこそ、ラッキョウです。
もちろん、牛さんはジャージー種ですね。」
「あら、いやんだーもー・・・言うわねー、言うわねー、言うわねーーー・・・！
肌が白いだなんて・・・モーモーモー・・・もちろん牛さんは、ホルスタインね～～～ん！」
突然のハツの言葉に慌てたようで、オーナーの顔は右４５度に引きつっていた。
「オーナーは、ビックですよ・・・人生の成功者なんでしょう。オレなんて、アリん子みたいに小っこい人間です・・・オーナー様・・・ぜひ、オレに先生って呼ばせて下さい・・・先生、先生、大せんせーーーい・・・！」
思わぬ反撃に、彼の顔は左75度に引きつり、ますます狼狽するばかりであった。
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ハツが案内されたのは、２階の屋根裏部屋だった。
４畳半程の広さで、東側に小さな窓があり、８０ワットの裸電球が１個だけぶら下がっていた。
部屋は、リホームをしたばかりなのだろう。
壁、天井、床・・・すべてに板が貼り付けられていたが、ド素人がやった仕事のように、ヘタクソだった。
おまけに、スギの臭いがプンプンとしていて、息苦しさを感じた。
「どおー、すんばらしいでしょー・・・この、クラシカルな壁がいいのよ・・・シックねー・・・
昔、留学していたパリを思い出すわー・・・下を見てちょうだい・・・テムズ川よー・・・
すんごいでしょう・・・あんた、ラッキョウよー・・・！」
言われたとおりに下を見おろすと小さな側溝があり、横に一本の木が植えられていた。
「ブクロのテムズ川と呼んでいるのよー・・・でも、雨が降ると氾濫するから注意してね、
先日も雨で、住人が一人流されたの・・・それに、私が植えた柳の木もあるでしょう・・・
風情があるでしょ・・・マロニエ通りにしようと思うのよー・・・
最高ね、もーー最高ねーー、モーモーモー・・・
もちろん、牛さんはホルスタインねー・・・！」
オーナーは、完全にイッちゃつてる人なんだと、ハツは確信した。
ヤケクソになった彼は、思いとは裏腹に、同調するかのような返答をした。
「すんごいですねー・・・見えます、見えます、見えますよー・・・ここは、ブクロのマカロニ通りなんですね・・・セザンヌやゴーギャンもやって来そうですね。
まさに、芸術の館・・・東京の・・・いやいや、世界のニューブクロ荘なんですねー・・・！」
ハツの言葉に反応したのか・・・顔が左９０度に引きつっていたオーナーは、徐々に笑顔を浮かべていった。
「あんた、すんばらしいわー・・・わかるのね、わかるのね、わかっちゃっているのねー・・・
ついに、この部屋に相応しい人物がやってきたのねー・・・いいわー・・・決めたわー・・・
この貴賓室を、あんたに貸すわーーー・・・特別に１０万円でどうかしら・・・芸術家のためだから・・・ディスカウントしちゃうわー・・・？」
どさくさに紛れて、コイツは何を考えているのだろうか。
ハツは、完全に呆れていた。
「帰ります・・・！」
「どうしたの・・・？」
「だから、帰ります・・・」
「なんで・なんで・なんでー・・・オデンでも食べるー・・・！」
「・・・やっぱり、帰ります・・・ぜひとも帰らせて下さい。」
「いやんだもー・・・そんな事を言っちゃダメよー・・・チョメ・チョメ・チョメ・・・
ここは３丁目なのー・・・チョメ・チョメ・チョメ・・・！」
不毛な会話は、しばらくの間、続いていったのである。
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来月号に、つ・づ・く　　♪　♪　♪
☆バンビー
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【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス