第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(109)
「ダンナさん・・・見てよ、見てよ・・・ここだけの話なんだけどもー・・・!」
そう言いながら、オーナーは、何度も小窓を指差していた。
どうせ、ろくでもない話だろうと、しばらくの間、ハツは無視を決め込んでいたが、彼の必死さに負けて、何となく小窓の方へ目を向けた。
「ほら、ほら、ほーら、ランランラーン・・・これは、トップシークレットよ・・・
ダンナさんにだけに教えちゃうわ・・・あんた、ラッキョウよー・・・!
でも、誰にも言わないでね、内緒の話なのー・・・!」
彼は勝手にウンウンとうなずきながら、強引に指切ゲンマンに持ち込んできた。
「本当に、本当に、教えたくないのよ・・・うふ、うふ、うっふーん・・・!」
オーナーは指切りをしながら、不器用に左目を閉じて、ハツにウインクをした。
「ケ・ケ・ケ・ケ・ケ・・・ケッコー、ケッコー、コケケッコー・・・
教えてもらわなくて、コケケッコー・・・
無理に、教えないでくださーい・・・コケ・コケ・コケ・コケケッコー・・・!」
ハツは、やけクソだった。
すべてが、どうでもいい事で、早くこの気持ち悪い場所から脱出したかったのである。
!!!!!!!!!!!!
「ほーら、ニューロマン荘の2階の一番南側を見てよー・・・!」
言われるままにオーナーの指差す方向を見たが、街頭に照らされた看板が見えるだけで、これといった物はなかった。
「いやんだーもー・・・どこを見ているのよー・・・白い柱のところよー・・・!
右から2番目の柱よー・・・!」
「えーと・えーと・・・何もありませんがー・・・?」
必死に眼を凝らして見たが、何もないように思えた。
ただ、使い古したピンク色の靴が、ぶら下がっているだけだった。
「アンタねー、靴が見えるでしょう・・・?」
「ヘーイ、見えるでがんす、見えるでがんす・・・!」
「それよーそれー・・・それがスンゴインだから・・・ウッ・キョ・キョ・キョーン・・・!」
オーナーは、エビが跳ねるように、上体を150度後方に反らして、一人でモリ上がっていたが、もう少しで、床板に頭が付きそうだった。
「あれは、リングシューズよ・・・知っているでしょう・・・利根川アユ子・・・
ねー、知っているでしょう・・・キャー・ステキー・ステキー・・!」
突然、絶叫しながら、またしても彼は物凄い勢いで後方に反り返った。
すると、「バキッ!!」という音と共に、頭が床にメリ込んだのである。
「スゲー・・・やったー、やっちまったなー、やってくれちまったなー・・・!」
ハツは、お見事な後方反り返りに、パチパチと拍手を送ったのである。
!!!!!!!!!!!!
頭頂部から鮮血を流しながら、オーナーは語り始めた。
「利根川アユ子は、伝説のプロレスラーよ・・・5年前に彗星のごとく現れたの・・・ビジュアルも最高・・・今までの女子プロレスを一変させたの・・・飛び跳ねるアユのように力強く、華麗に、リングの中で美しく舞ったの・・・はじめて目にしたお姿・・・まるでエンジェル・・・一発で、ハートを撃ち抜かれたのよ・・・!」
彼は、顔を赤く染めながら夢を見ているかのように語った。
ハツは、プロレスラーの利根川アユ子という名前から、ある女性を思い浮かべていた。
「そ・そ・そ・・・その方の出身は、もしかして・・・上州ですか・・・?」
「アン・アン・アン・・・どうして知っているの・・・あなたも、ファンなのね・・・モー・モー・モー・・・牛さんは、ホルスタインねー・・・
でもね、3年前に交通事故に遭ってね・・・膝と腰をやっちゃって、引退してしまったの・・・
わたしは一途なファンだから・・・ニューロマン荘に来ていただいたの・・・
いつか復活したお姿を見たいのよ・・・!」
オーナーの目から、大きな涙がとめどなく流れた。
ハツはこの時、元プロレスラーはカズコだと確信した。
「決めました・・・お願いします・・・この部屋でお願いします。」
あっけにとられたオーナーは、再びエビが跳ねるように、後方に180度反り返った。
「バギューン!」という恐ろしい音とともに、またまた床板を突き破り、頭からメリ込んで行った。
豪快な一人バックドロップに、ハツは目を丸くしながらパチパチパチパチと拍手を送ったのである。
来月号に、つ・づ・く  ♪ ♪ ♪
☆バンビー
!!!!!!!!!!!!
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス