第2章 アーノルド♡ハカチェ∞ソクラテスの追想(111)
オーナーの言っていた「ベンジャミン」というトイレは、ニューロマン荘とニューブクロ荘の中間にあった。
一見、なんの変哲もない小さな物置のように思えたが、近づいてみると、よく手入れのされたコジャレた建物だった。
権さんが帰省してから、20年ほど経過しているはずであるが、その間も、たびたび使用されていたようだ。
入口には看板があり、ブクロのパワースポットと書いてあった。
細々とした注意書があり、これを守らない者は生涯にわたって出禁にすると書いてあったが、はたしてそんな大袈裟なモノなのであろうかと疑問に思った。
直接、文字を板に刻んだようで、要約すると以下のような内容だった。
1 入室する時は、深々と一礼をすること。
2 慌てず、ひと呼吸おいてから用をたすこと。
3 チャレンジする者は、100円を箱に.投入すること。
4 年齢・性別・国籍を問わない。
5 使用済みの物は、衛生上の観点から、各自が責任をもって持ち帰ること。
6 すべてをクリアした者は、ニューブクロ荘より勇者の称号が与えられる。
初心者には、なんの事かチンプンカンプンであろうが、正直屋ストアーの恐怖便所を経験したことのあるハツにとっては、おおよその内容は理解できた。
!!!!!!!!!!!!
彼は今、権さんの作った「ベンジャミン」の前に立ち、武者震いをしていた。
脳ミソから大量のドーパミンが分泌され、体の隅々まで行きわたるのが解った。
「できる・・・できる・・・できる・・・オレには、できるぞー・・・
あの日のリベンジ・・・今ここで果たしてやるぞー・・・
ウォーウォーウォー・・・ウォーウォーウォー・・・!」
ハツは、メラメラと燃えていた。
紅蓮の炎が体を包み、ドキンドキンと心臓が鼓動し、まるで赤穂浪士の討ち入り時の山鹿流陣太鼓のように、大きく鳴り響いていたのである。
思えば10年前、プロコース制覇まで、あと一歩の所まで迫ったのに・・・
無念のリタイアをしてしまった。
あの時、乗り越えられなかった悔しさが、トラウマになってしまった。
そして今・・・これぞ、千載一遇のチャンスだ・・・!
「やってやろうじゃねーかー・・・やってやろうじゃねーかー・・・
ウォーウォーウォー・・・ウォーウォーウォー・・・!」
ハツは、「ベンジャミン」に大きく一礼をした。
ためらいつつも・・・そっと・・・静かに・・・ドアノブに手をかけたのである。
!!!!!!!!!!!!
ところが、中から獣のうめき声みたいなものが聞こえてきたである。
「ウーウーウー・・・ウーウーウー・・・ウーウーウー・・・!」
これはいったい、何事なのだろう?
クマでも、中にいるのだろうか?
彼は、少し躊躇していたが、怖いもの見たさで、10センチほどドアを開けた。
すると、いきなり汚いケツが、目の前に迫ってきたのだ。
「なんじゃこりゃー・・・この世の物とも思えんぞー・・・おぞましい物体だ・・・!」
ハツは、思わず両手で口を押えて、心の中で絶叫した。
「ウソだろう・・・なんでやねん・・・なんでやねーん・・・!」
一瞬、ブタの尻かと思ったが、まぎれもない人間のものだった。
中の人間は、みごとにハゲていて、容姿から推測すると老人に見えた。
たぶん、初心者なのであろう・・・ポットン式便器にまたがり、中腰になって一本の縄を前後に動かしていた。
玉のような汗を流し、オーオーオーと嗚咽をもらしながら、肛門をシゴいている。
・・・一本ということは、入門者コースであろう。
チャレンジブックには、各コースのクリア条件として「前後に10回シゴクこと。」とある。
この状態では、まだ半分も行ってないはずだ。
!!!!!!!!!!!!
これから、荒縄のササクレ攻撃が待っている。
あれは、手ごわいぞ・・・突き刺さるぞー・・・がんばれ・・・がんばれ・・・!
ハツは、笑いを噛み締めながら、ドアをそっと閉めた。
・・・が・・・オーオーオーという獣みたいな唸り声は、しばらくの間、続いていたのである。
!!!!!!!!!!!!
来月号に、つ・づ・く ♪ ♪ ♪
☆バンビー
【語り手】アーノルド♥ハカチェ∽ソクラテス